腐敗狩りで権力強化、習近平改革の本気度 元最高幹部の汚職摘発は改革断行への決意

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(写真:LatinContent/Getty Images)

中国の改革加速へ、習近平国家主席は一気にアクセルを踏み込んだようだ。7月29日、周永康・元共産党中央政治局常務委員が汚職の疑いで立件されることが発表された。これは大方の予想よりも早い決定だった。

立件自体は時間の問題とみられていた。周は石油利権のドンとして有名だが、中国石油天然ガス集団(CNPC)前会長の蒋潔敏・国有資産監督管理委員会主任(閣僚級)など側近が昨年以降、次々と拘束されていたからだ。

8月にかけては、河北省の避暑地・北戴河で共産党首脳による非公式会議が開かれるのがならわし。周の処遇は、ここでの根回しを経て決まるとみられていた。

その前に立件が発表されたことは、習の政権基盤がそうとうに堅い証左ともいえる。胡錦濤政権で序列9位だった周ほどの高官が汚職で裁かれるのは空前のことだ。だが、発表直前まで、習は2週間近くかけて中南米を歴訪していた。極めて重要なタイミングで北京を長期間空けておけるのは、習の自信の表れだろう。周の立件が発表された同じ日、党第18期中央委員会第4回全体会議(四中全会)を10月に開催することも公にされた。党や国家の重要課題を議論するため全国から幹部が集まる会議だ。

昨年11月の三中全会は、2012年に発足した習指導部の基本政策を決める場だった。このとき示された合計60項目もの改革メニューは、どれも意欲的な内容だった。その後、経済から安全保障に至るまで、習への権限集中が進んでいるものの、目に見える成果は乏しい。経済分野では、景気失速を避けるために財政政策や金融政策が動員され続けており抜本的な改革は難しいのではないかという失望感が広がっていた。

APECで試される手腕

経済改革の中で最大の難所は国有企業改革だ。「腐敗狩り」の本当の狙いは、国有企業に絡む利権構造の解体だと見る向きもある。周や側近の蒋は、党幹部と国有企業による既得権益集団を体現する人物だった。7月15日には、中糧集団など、中央政府傘下の大型国有企業6社を対象に、民間の資本を受け入れるといった、改革の実行が発表されている。

腐敗から格差拡大まで、高度成長の「負の遺産」の解消が習政権の最優先課題だ。7月30日には農村からの出稼ぎ者の都市定住を後押しするための戸籍制度改革も公表された。周の立件を受けて、四中全会のテーマは、「依法治国(法による統治)」とされた。同会議で改革メニューの実行プランがどれだけ具体化されるかが大きなポイントだ。

11月には北京郊外の雁栖湖で開かれるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会談が控えている。米ロが鋭く対立する中で首脳会議をどうさばくかは、中国の国際的地位にも大きく影響する。さらに、日中関係という難しい要素が絡む。中国がホスト国である以上、習が安倍晋三首相とあいさつすらしないようだと批判は免れない。正式な首脳会談は無理だとしても、「立ち話」程度の接触はせざるをえないだろう。

腐敗狩りを通じて手にした絶大な権力を用いて、習が内外の課題をどう片付けていくのか。この秋、彼の本気度が明らかになる。 =敬称略=

「週刊東洋経済」2014年8月23日号<8月18日発売>掲載の「核心リポート04」を転載)

西村 豪太 東洋経済 コラムニスト

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にしむら ごうた / Gota Nishimura

1992年に東洋経済新報社入社。2016年10月から2018年末まで、また2020年10月から2022年3月の二度にわたり『週刊東洋経済』編集長。現在は同社コラムニスト。2004年から2005年まで北京で中国社会科学院日本研究所客員研究員。著書に『米中経済戦争』(東洋経済新報社)。

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