東芝・WHがつかんだ初の東欧「原発ビジネス」
ブルガリアで獲得した巨大案件とは

拡大
縮小

保守サービスや燃料でも稼ぐ

もっとも、ブルガリアのように財政基盤が盤石でない国では、リスクもある。実は最近までブルガリア北部のベレネでは、ロシア製原発2基の建設が計画されていた。06年10月にロシア企業と契約を結んだものの、ブルガリアは資金難を理由として12年3月に中止を決めた。

コズロドイ7号機でも資金面が大きな焦点だ。12年4月にブルガリア政府が新設を原則承認したとき、財務相が政府のカネは使わない旨の発言をした。現時点では受注内定段階で、資金の詳細は明らかにされていない。

今後はブルガリアの政治情勢も大きく関係する。同国では7月の首相辞任を受け、10月に総選挙が実施される予定だ。原発新設には新内閣の承認が必要。政権交代のあったリトアニアでは、日立が原発建設の優先交渉権を持ちながら約3年も待たされたように、時の政府の意向は大きい。

東芝にとって今回の案件は、目先の利益で計れない“うまみ”もある。

「保守・サービスなど、既設プラントでのビジネスを強化・推進し、確実な利益確保を図る」。そう田中久雄・東芝社長が語るように、原発ビジネスは新規建設で儲かるのも確かだが、長期的に保守やメンテナンスの収入も継続して入るからだ。現に東芝グループの原子力事業は、売上高の8割以上を、既設プラントの保守・サービスや燃料供給で稼いでいる。

さらにはブルガリアで実績を積み、東欧の他の国でも進出の足掛かりを作りたい、との思惑もある。東欧ではロシア製の原発が多く、WHはロシア以外で燃料供給技術のある、唯一のメーカーだ。「(これから)サービスも燃料もロシアと争う領域に入る」(野田哲也・原子力事業部原子力海外技術部部長)。

東欧に原発ビジネスで攻勢をかける東芝─WH連合。国内では雌伏の時期を過ごす東芝だが、海外ではしたたかに確実に足場を築いている。

「週刊東洋経済」2014年8月23日号<8月18日発売>掲載の「核心リポート01」を転載)

富田 頌子 東洋経済 記者

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とみた しょうこ / Shoko Tomita

銀行を経て2014年東洋経済新報社入社。電機・家電量販店業界の担当記者や『週刊東洋経済』編集部を経験した後、「東洋経済オンライン」編集部へ。

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