アフガン混乱に失望「欧州の米国離れ」が始まった 独自の防衛力構築へ「欧州軍」創設の議論再燃
実は、マクロン大統領は2018年、アメリカが1987年に締結した中距離核戦力(INF)全廃条約から離脱したことについて「主たる犠牲者」は欧州だったとの認識を示した。地理的にロシアから離れたアメリカは欧州防衛を考慮せず、相談もせずにロシアとの政治的やり取りで離脱を決めたと批判。欧州防衛でアメリカを頼りにできるのか疑問を呈し、欧州防衛軍の創設を訴えた。トランプ大統領は即座に不快感を示した。
当時はドイツのメルケル首相も「欧州の防衛でアメリカを頼りにできるのか」と、公然と疑問を呈し、マクロン氏に同調した。ただ、ドイツは今月2日の外相会合で本格的な欧州軍創設について、クランプ=カレンバウアー国防相が、危機に対処するため素早く派遣する有志連合軍を可能にするように呼び掛けた。これはフランスとは異なった見解だ。
欧州にとってアフガンの教訓は、NATOの中心にいるアメリカが欧州の兵士と在留者の生死を左右するようなアフガン駐留と撤退を協議することもなく一方的に意思決定し、欧州は従うしかない状況の不本意さだった。欧州首脳は撤退時期について「アメリカ次第だ」と繰り返し述べていた。そのため、アメリカとは別に撤退時期を延ばすこともかなわず、自国民とアフガン人協力者を置き去りにせざるをえなかった。
イギリスのテレサ・メイ元首相は9月初めの英議会で「アフガニスタン政府に対する私たちの理解は、それほど貧弱だったのか? 現場での知識はそれほど不十分だったのか? それとも、わが国はアメリカに従う必要があり、彼らの翼と祈りに守られ、夜は大丈夫だと思ったのか?」とイギリスのアメリカ依存に疑問を呈した。
EU加盟国間で温度差がある
では今回のアフガンショックで、欧州軍は本当に実現するのか。実は、欧州防衛に関してはロシアに近い中・東欧と西欧の国では捉え方が違う。アメリカの大きな核の傘に入りたい中・東欧にとってNATOは重要な存在だ。欧州軍創設でアメリカを怒らせることを避けたい加盟国も少なくない。
EUでは1999年、5万~6万人規模の緊急展開部隊を2003年までに運用可能にすることで合意したが、履行されたことはない。2007年に1500人規模の有事即応部隊を投入する仕組みを導入したが、1度も発動していない。つねにアメリカ主体のNATOに依存してきた。
一方、国際協調の外交政策を前面に出すバイデン政権にとっても、欧州への影響力の低下は当然ながら痛手だ。なぜなら、中国、ロシアと対峙するうえでマイナスになるからだ。
今回のアフガン撤退について、日ごろバイデン政権を擁護するリベラルメディアのワシントン・ポストにさえ、「アメリカの歴史に刻まれる大失態」「アメリカの恥辱を世界にさらした」と書かれるなど、アメリカの弱体化を露呈してしまっている。そのうえに最有力の同盟国である欧州が離れるとなれば、状況はますます深刻になるといわざるをえない。
EUは統一された外交政策をとることに苦戦してきた。11月までに欧州軍創設の計画策定を目指すEUだが、加盟国間での温度差もあり、アメリカへの気遣いもあって策定は簡単ではなさそうだ。
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