シャープの新「補聴器」画期的だが心配な5つの訳 期待市場に低価格・多機能で参戦したからこそ

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では、④使用者を見る周囲の目を気にしているだろうか。なかなか、この補聴器のデザインはおしゃれでしょ、と自己満足していても安心できないのがビジネスの現場である。たとえば、営業マン(ウーマン)が初対面の顧客と名刺交換したとき、顧客は「メディカルリスニングプラグ」を装着している営業担当者の耳元を見てどう思うか。「この人、音楽を聴いているのか」と思わないまでも、「電話するためにイヤホンをつけているのかもしれないが、話をするときぐらいは外しておけよ」と不愉快になっているかもしれない。むしろ、誰もが「補聴器」と認識できる耳掛け型のデバイスを着けているほうが、顧客も「難聴者」として配慮してくれるだろう。

(写真:シャープ)

日本の家電産業が競争力を落とした原因は過度な多機能化だけではない。徐々に製品価格を上げている自動車産業に対し、過度な価格競争に陥った点にある。「メディカルリスニングプラグ」の価格破壊は、⑤補聴器をコモディティー化してしまわないか。既存の補聴器機専門メーカーに加えて、近年、家電、音響メーカーなどからの参入が相次いでいるだけに、イノベーションを実現しながらも価格競争の渦に巻き込まれ、自らコモディティー化してしまった電卓の二の舞いを演じることにならないだろうか。

「他社にマネされる商品をつくれ」の先があるか

シャープは2016年3月期に2559億円の最終損失を出したが、同年8月に世界最大のEMS(電子機器の受託製造サービス)企業である台湾・鴻海精密工業へ傘下入りした。その後、急回復し東証1部へ復帰。2018年3月期以降は黒字が続いている。その間、陣頭指揮を執った戴正呉会長兼最高経営責任者(CEO)が2022年3月までに退任する。戴氏は出社すると、本社内(大阪府堺市)にある早川徳次像に毎日黙礼する。早川氏の創業理念に敬意を表し今も大切にしている。

早川氏が残した代表的な名言に「他社にマネされる商品をつくれ」がある。他者がまねたくなるようなイノベーションを起こせという意味である。実際に、シャープには、ラジオ、白黒テレビ、電卓、電子レンジ、液晶テレビなど、世界初、日本初という製品が多い。ところが残念ながら、「他社にマネされ負けてしまった」ケースが散見される。優れた技術を持ちながら、経営破綻に陥った歴史を繰り返さないためにも、裏の裏を読み、より深く考え込んだ商品企画、マーケティング戦略が求められる。

長田 貴仁 経営学者、経営評論家

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おさだ たかひと / Takahito Osada

経営学者(神戸大学博士)、ジャーナリスト、経営評論家、岡山商科大学大学客員教授。同志社大学卒業後、プレジデント社入社。早稲田大学大学院を経て神戸大学で博士(経営学)を取得。ニューヨーク駐在記者、ビジネス誌『プレジデント』副編集長・主任編集委員、神戸大学大学院経営学研究科准教授、岡山商科大学教授(経営学部長)、流通科学大学特任教授、事業構想大学院大学客員教授などを経て現職。日本大学大学院、明治学院大学大学院、多摩大学大学院などのMBAでも社会人を教えた。神戸大学MBA「加護野忠男論文賞」審査委員。

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