シャープの新「補聴器」画期的だが心配な5つの訳 期待市場に低価格・多機能で参戦したからこそ

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このような傾向は、他製品の商品企画、マーケティングでも見られる。高齢社会で高齢者市場が大きな位置を占めるようになってきているのにもかかわらず、商品やサービス、コンテンツを開発する人たちは「現役」の人たちである。どうしても「同世代」に関心があり、その情報も多く耳に入る。企画会議などでは「最近、私の知り合いがねえ……」といった話題から始まる。ターゲット・マーケティングの対象が知らないうちに、身近な存在に偏っているのである。この何気ない日常が日本で最多人口の「高齢者市場」を開拓するうえでの障害になっている。

このことに関連するが、②「補聴器のシャープ」というブランドを定着させることができるか否かが心配される。「シャープ」と聞けば、「液晶のシャープでしょ」と答える人は多いが、「補聴器で有名な会社ですよね」と答える人はいない。つまり、まずは幅広く補聴器ユーザー層に訴えかける製品を第1弾として打ち出すマーケティング戦略が優先されるべきであったのではないか。

シャープには差別化されたとがった製品を出しながら、その市場を継続的に拡大できなかった事例がある。液晶モニターを見ながら撮影ができるようにしたビデオカメラ「液晶ビューカム」(1992年発売)である。他社のビデオカメラはすべてビューファインダーをのぞく製品だったが、「液晶ビューカム」は撮影した映像をすぐさま液晶ディスプレイで楽しめる機能が大変話題を呼び、大ヒット商品となった。ところが長続きはしなかった。ソニー、パナソニック、キヤノンなどが同様のビデオカメラを相次いで発売した。その結果、「ビデオカメラのシャープ」になれず、同市場から消えていく運命をたどった。

過剰な多機能でいいか

ビジネスシーンにマッチするスタイリッシュなデザインで、日常的に着用したくなる新しいスタイルの補聴器(写真:シャープ)

日本の家電メーカーの低迷を見て、「いい製品が売れるとは限らない」とよく揶揄される。その一因として指摘されるのが「過剰な多機能」である。そこで、「補聴器だけでなく、音楽も楽しめますよ」「スマホで通話もできますよ」とうたっている「メディカルリスニングプラグ」においても、③多機能を強調することにより、補聴器としての打ち出しが弱くなり、補聴器ブランドを形成するうえで不利にならないか、と懸念される。

多機能化は日本人のこまやかな気配りによるところが大きい。だが、空気を読めず、往々にして空回りしていることがある。「メディカルリスニングプラグ」についてシャープは、「ビジネスシーンにマッチするスタイリッシュなデザインで、眼鏡や時計のように日常的に着用したくなる新しいスタイルの補聴器としてご提案します」と強調している。現役ビジネスマンのビジネスシーンを想定しているのだろう。

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