シャープの新「補聴器」画期的だが心配な5つの訳 期待市場に低価格・多機能で参戦したからこそ

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シャープは「まだまだバリバリ働きたいが、今後、仕事を続けられるのか」「いつまで耳の健康を維持できるか」「パフォーマンスが落ちないか」と悩む難聴の現役ビジネスパーソンを顧客にできないかと考えた。彼らをターゲットにし、「聴く力が健康な状態である健聴寿命期間の延伸で生涯現役社会の実現に貢献したい」(津末専務)という。

現役ビジネスマンにターゲットを絞り込むニッチ戦略(写真:シャープ)

確かに、既存製品が見逃していた未開拓の市場に差別化された新製品を投入する戦略は、ある意味、ニッチ戦略として評価される。現役時に難聴を自覚した人は、リタイア後も引き続き補聴器を利用するだろう。

だが一方で、現役ビジネスマンにターゲットを絞り込むことによるリスクもある。2015年時点で65歳以上の人口が総人口の4分の1を超えた超高齢社会の日本において、成長性と利益率が高い宝の山をあえて避けることになっていないだろうか。スマートフォンを活用してリモートで行う自慢のサービス“COCORO LISTENING”でもこの点が懸念される。

スマホを使い慣れた世代にはありがたいが…

補聴器を購入すると、音の調整、フィッティングのため販売店に3~10回ぐらい足を運ばなくてはならない。対して、「メディカルリスニングプラグ」の購入者はスマートフォンで専用アプリを使い、資格を持つ補聴器のフィッター(相談員)に相談し、後日、使う環境や耳の状態に合わせてプロに調整をしてもらえる。確かに、スマートフォンを使い慣れた世代にとっては、ありがたいサービスである。

しかし、コロナ禍におけるワクチン接種予約でどれほど多くの高齢者が戸惑ったことか。スマートフォンを使えないので、なかなかつながらない中、電話を何度もかけざるをえなかったと嘆く老人が多く社会問題となった。まさにこの層が補聴器の主要ユーザーなのである。現在の60代でさえアプリ慣れしていない人がいる「デジタル後進国」日本の現状をシャープはどう見ているのだろうか。「メディカルリスニングプラグ」自慢のサービスを見る限り、社会問題解決にはつながっていないようだ。

この背景には、開発に関わった人たちの年齢が影響しているのかもしれない。津末専務は62歳。石谷部長は56歳で、これまでは携帯電話やスマートフォンの商品企画に従事していた。昨年7月に発足した「デジタルヘルスソリューション事業推進部」の部長としてヘルスケア分野での商品開発に取り組んでいる。「メディカルリスニングプラグ」の商品企画に携わったメンバーは、40~50代が中心となっている。まさに、開発者やマーケターと顧客の世代が一致しているのである。

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