バイデン大統領支える「がんで逝った息子」の存在 苦難の中でいかに大統領選出馬を決めたのか

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

アメリカの大地には4年ごとに太鼓の音が鳴り響く。大統領選の年が明けると、アイオワ州でまず党員集会があり、続いてニューハンプシャー州で予備選挙が行われ、永く過酷なレースの幕が切って落とされる。

本書が構想された時には、本命候補だったヒラリー・クリントンはすでに敗れ去り、アメリカはトランプ治世のもとで真っ二つに切り裂かれていた。いまこそ自分がこの国を結束させてアメリカに民主主義を取り戻さなければ──本書は2020年の大統領選挙を見据えて構想されたのである。

2年以上前から選挙マシーンを稼働させ出馬を表明すれば、ライバル候補の格好の標的となり、メディアの圧倒的な照射を浴びて干からびてしまう怖れがある。だが、息子の闘病記の出版なら、新刊キャンペーンを名目に激戦州を回り、講演も数多くこなすことができる。

天国からこだましてくる息子の声

さりげなく登場する政治家の人選にも、ジョー・バイデンの選球眼がキラリと光っている。バスケットボールのプロ選手から上院議員となったビル・ブラッドリーは、中間層に配慮した税制改革を主導した民主党の星だった。

ベトナム戦争で捕虜生活に耐え、アリゾナ州の上院議員となったジョン・マケインは、安全保障政策に精通する共和党穏健派の重鎮だった。彼らとの党派の利害を超えた絆の強さを訴え、錆びついたベルト地帯の労働者や南部の中間所得層に的を絞って、来るべき戦いの戦略を練っていたのである。

かくしてジョー・バイデンは、天国からこだましてくる「父さん、ホームベースに立って」という長男ボーの声に突き動かされて、2020年の戦いに突き進んでいった。その果てにトランプとの激闘に打ち克って勝利を手にしたのだった。

手嶋 龍一 外交ジャーナリスト、作家

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

てじまりゅういち / Ryuichi Tejima

1949年、北海道生れ。冷戦の終焉にNHKワシントン特派員として立会い、FSX・次期支援戦闘機の開発をめぐる日米の暗闘を描いた『たそがれゆく日米同盟―ニッポンFSXを撃て―』を発表。続いて湾岸戦争に遭遇して迷走するニッポンの素顔を活写した『外交敗戦―130億ドルは砂に消えた―』を著し、注目を集める。2006年には世界各地に張り巡らした極秘の情報源を駆使して北の独裁国家の謎に挑んだ『ウルトラ・ダラー』を発表。著書に『スギハラ・サバイバル』はその姉妹篇にあたる。ほかに『インテリジェンスの賢者たち』や『宰相のインテリジェンス―9.11から3.11へ―』がある。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事