バイデン大統領支える「がんで逝った息子」の存在 苦難の中でいかに大統領選出馬を決めたのか

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『約束してくれないか、父さん──希望、苦難、そして決意の日々』は、現職のアメリカ副大統領が最愛の息子の難病に共に挑んだ勇気のドキュメントだ。長男のボーは家族に支えられ、膠芽腫という難敵に怯まなかった。ウイルスが健康な細胞を攻撃する性質を逆手にとって、膠芽腫を駆逐する生ウイルスの治験にも進んで応じ、戦い続けるさまは凄絶だ。

その一方で、日々押し寄せる副大統領の膨大な公務は、ジョー・バイデンを息子の看病に専心させてはくれない。激務の合間を縫って専用機〈エアフォースツー〉で首都ワシントンからヒューストンに駆けつける。病室の近くに盗聴防止装置のついた通信回線を設え、現地で激戦が続くイラクやウクライナの首脳を呼び出して協議する。

なぜ自分だけがかくも不条理な仕打ちを受けるのか──時に絶望に打ちのめされるジョーは、そんな心情を飾ることなく正直に綴っている。闘病中の息子を抱えながら日々の仕事もこなさなければならない1人の父親の物語としてもずしりと読みごたえがある。

29歳で襲った悲劇

バイデン家の人びとの絆。それはこのファミリーを襲ったあの悲劇なしには語れない。

ジョー・バイデンが29歳の若さで連邦上院議員に当選した直後のことだった。妻と3人の子供たちを乗せた乗用車がトレーラーに激突され、妻ネイリアと一歳の娘ナオミの命が奪われてしまう。遺された長男のボーは間もなく4歳、次男のハンターは3歳になるところだった。

若き上院議員は2人の息子をわが手で育てながら、連邦議会までアムトラックで長時間の通勤をしなければならなかった。そんな父親を励まし続けたのが長男のボーであり、後に再婚したジル夫人だった。

連邦議会に程近いユニオンステーションは、ジョーにとって身近な通勤駅だ。ここから上院議員会館に入り、さらに地下道を走るトロッコのような簡易電車に乗って本会議場に向かう。

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