「伝説のギタリスト」に学ぶイノベーションの秘訣 歴史的なギター、アイバニーズJEM誕生物語

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彼がプロジェクトを始めたときはデヴィッド・リー・ロスとツアー中で、使っていた22フレットのフェンダー・ストラトキャスターではものたりなかった。スティーブは指を使って信じられないくらい器用に高い音を出すことができる。そこで、ネックをもっと長くすればどの弦でも2つのオクターブをフルに出せると考えた。

「僕は24フレットが欲しかったんだ。しかもストラトキャスターのスタイルでね。ただしもっとセクシーなデザインでないとダメだ。 ストラトキャスターは僕には平凡に見える。だからボディをカットしてもらったんだ」

高い音に手が届くようになってもスティーブは満足できなかった。弦に手を伸ばして、ドラマチックに鋭くベンドしたかった。だが従来のギターのボディではできないため、深くボディをカットして両手が使えるスペースを作った。最後に彼が望んだのは乗馬のサドルのハンドルにヒントを得て、ボディの一部を空洞にした「モンキー・グリップ」で、そこをつかめばステージではドラマチックにギターを振り回すことができる。

「僕は契約しているギターメーカー全部に試作品のデザインを送ってこう言った。どこでもいいから最高のものを作ってくれたら、それを使うし、僕の名前を入れる、とね。案の定、ほとんどのメーカーが、僕の名前を入れて申し訳程度に改良しただけの普通のギターを送り返してきた。僕が望むものと言ったのに、どうしてそのとおりにしてくれないのか理解できなかったよ」

しかしアイバニーズはスティーブのデザインを十分反映したバージョンを送ってきた。フレットが足され、断面が切り取られてモンキー・グリップが施されていて、ブリッジ・トレモロの隣にパームレストがある。何もかも彼のリクエストしたとおりだ。

そしてフタを開けてみると、スティーブもアイバニーズも狙いは正しかった。それから30年間でJEMは数百万台も売り上げた。ロック・スター向けの派手なギターが作られる一方で、断続的ながらも30年にわたってJEMのさまざまなモデルがマーケットを支配するのだった。

とことん遊び、実験して、突き詰める

アスリートの挑戦や科学の実験と違って、音楽の創造は入念な計画や確固たるメソッドから始まることはない。アーティストがいろんなことを自由に試し、やりたいことを思い切り突き詰めた結果、今までにないものが生まれる。このことは、ビジネスパーソンにとってのイノベーションにも同じことが言えるだろう。 

イノベーターもミュージシャンも、大切なのは、損得抜きにして自分のやりたいことを突き詰め、自由な実験を通じてその方法を探求し発見しようと懸命に打ち込むことだ。

その他大勢の存在で終わるか、抜きん出た存在になるかはそこにかかっている。

パノス・A・パノイ 元バークリー音楽大学のグローバル戦略・イノベーション担当上級副学長

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Panos A. Panay

グラミー賞を主催するザ・レコーディング・アカデミーの共同会長。元バークリー音楽大学のイノベーション及び戦略担当上級副学長であり、ソニックビッズの創設者。『ファスト・カンパニー』の「ファスト50」リストや『Inc』の「Inc500」に名を連ねるなど、数多くの賞や称号を受けている。

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R・マイケル・ヘンドリックス IDEOパートナー兼グローバル・デザイン・ディレクター

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R. Michael Hendrix

イノベーションのコンサルタント会社IDEOのパートナー兼グローバル・デザイン・ディレクター。バークリー音楽大学で起業家精神を教え、『WIRED』『ファスト・カンパニー』、SXSWミュージックで基調講演を行っている。

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