「伝説のギタリスト」に学ぶイノベーションの秘訣 歴史的なギター、アイバニーズJEM誕生物語

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次にミュージシャンたちの創造性の例として、スティーブ・ヴァイを紹介したい。若いときからギターを手にしている人にとってスティーブは憧れの存在だろう。グラミー賞を3度受賞した彼が最もよく知られているのは、フランク・ザッパ、デイヴィッド・リー・ロス、ホワイトスネイク、メアリー・J・ブライジ、オジー・オズボーンらのバックを務めたときのステージで披露した名人級の腕前だ。高速でものすごく正確に弦を鳴らすがエモーションがない、そんなヘヴィ・メタルのギタリストとは一線を画している。彼のプレイはより速くより正確だが、すばらしい感触で温もりさえ感じられる。

2012年のレス・ポール賞を受賞した際、全米楽器商人協会(NAMM)からこう賛辞の言葉が贈られた。「スティーブ・ヴァイはその才能を音楽という言語の創造的な発展に捧げた。多くのアーティストが1つのカテゴリーに容易に収まるのに対し、スティーブ・ヴァイはどこにもカテゴライズできない存在であり続けている。彼は音楽の錬金術師として最高峰の存在だ」。

伝説のギター、アイバニーズJEM

だがスティーブが最も知られるのは、息をのむようなソロだけではなく、最も売れたギターのシグネチャーシリーズ(有名人の名前を冠して販売される商品)、アイバニーズJEMをデザインしたことだ。

ギターのメーカーは昔からシグネチャー・エディションを発表し、有名アーティストの名前を入れるだけでほとんど改良を施さないまま大量生産してきた。こうしたシグネチャー・エディション・モデルもその気になればさまざまなウッド素材のモデルを提供し、ピックアップとチューナーを向上させ、色のバリエーションを増やし、もちろんヘッドストックに著名人のサインを刻印したものを提供できるだろう。だがスティーブはそれ以上のものを望んでいた。

彼は僕たちにこう語ってくれた。「JEMを作っているときは無邪気に楽しめたし、思い切ってどんな実験でもできた。別にギターの今後とか金儲けのことなんて考えなかったよ。野心にとらわれてると、逆にそれが足かせになったりするもんだけど、僕には野心なんてなかった。ここにあるギターは損得抜きで作ってもらったんだ。自分のためにね」。

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