ちなみに同社のオーナー、シェルドン・アデルソン氏はドナルド・トランプ大統領(当時)の大スポンサーであり、「政治力を使って、日本のIR市場に割り込んでくる」などと囁かれていたものだ。一部では、日本政府はその片棒を担がされるに違いない、などという観測まで飛び交っていた。
「三方よし」にほど遠い現状のIRビジネス体系
しかるにアデルソン氏の経営判断は、きわめて合理的なものであった。ブルームバーグ社の記事”Las Vegas Sands Gives Up on $10 Billion Japan Casino Project”(ラスベガス・サンズ社は、日本のカジノ1兆円計画を断念)を基に、この間の事情を説明しよう 。
* 世界最大の富豪の1人であるアデルソン会長は、ラスベガスやマカオやシンガポールに建設したのと同様なギャンブル、ホテル、展示場を含むリゾート施設に100億ドルを投資したいと言っていたが、このたび撤退声明を発表した。
* 最大の障壁のひとつは、営業許可期間がわずか10年に限られていることだ。この期間内であっても、政府や自治体が条件を変更して企業利益を阻むかもしれない。サンズ社のリゾート施設はマカオでは20年、シンガポールでは30年のライセンスを与えられている。
* リゾート建設に5年程度を要することを考慮すると、10年間の営業許可は投資規模を回収するリターンを得るには満たない。日本における地価や労働力は高価であり、銀行は建設コストの半分を超えて貸そうとはしない。日本での課税ベースは、ギャンブル総収入からの30%取り立てに加えて、法人税も31%であるという。
* 日本政府は、日本の市民がカジノを訪問する回数を制限し、入場料を1日55ドル程度にする計画である。しかも外国人顧客が勝った場合には、勝ち分に対して課税されるかもしれないという。
近江商人の経営哲学に、「三方よし」の教えがある。「売り手よし、買い手よし、世間よし」というもので、そうでないとビジネスは長続きしませんよ、という教えである。しかるにこのIRビジネスは、「三方よし」ではないのである。
カジノ会社にはやけに大きなリスクがあり(営業許可期間は短く、課税ベースも高い)、ファンにもいろいろ負担があり(3割のテラ銭はJRAよりも高い)、社会への貢献ばかりが大きくなっている。
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