さて、民意は出た。たぶん横浜市のIR推進室は、近日中に解散ということになるのだろう。これまで横浜IRには、カジノ運営会社としてシンガポールのゲンティン、マカオのメルコの2グループが審査を通過していたが、計画の白紙撤回に伴って、彼らも「お疲れさま」ということになるはずだ。
IRビジネスの枠組みも再考の必要性あり
まことに興味深いことに、ゲンティンと組んでIR事業参入を狙っていたセガサミーホールディングスの株価が、選挙の翌日から上昇に転じている。普通だったら売り込まれるはずのところ、こういう反応が出るところがいかにも株式市場である。果たしてマーケットは同社に「IRなんて儲かるはずがないのだから、本業に専念しろ」と言っているのだろうか。
かねてカジノの愛好者で、IRビジネスにも関心を持ってきた筆者としても「まあ、この結果はしょうがないな」と思っている。昨年来の世界的なコロナ感染の蔓延を受けて、IRやツーリズムをめぐる状況は一変してしまった。
「アフターコロナ」の時代が到来して、インバウンドの需要が戻ってくるまでには、まだまだ時間を必要とすることだろう。そしてカジノで得られる収益で「MICE」(会議、研修旅行、国際会議、展示会などの英語の頭文字をとったもの)と呼ばれる巨大施設をともなった「集客装置」を作り、都市に多くの人の往来と消費と財源をもたらそう、という目論見も、時代の要請に合わなくなりつつある。
ただしそれ以前に、現行のIRビジネスの枠組み自体も再考の必要があろうかと思う。横浜IRにおいても、昨年、アメリカのラスベガス・サンズ社が撤退宣言をしたことが痛かった。申し訳ないけれども、アジアのカジノ運営会社では所詮、大きな投資になりそうにないのである。この間の事情は、あまり知られていないのではないかと思う。
サンズ社が日本市場から撤退したのは昨年5月のこと。同社はかねて100億ドル(約1.1兆円!)の対日投資を検討していた。何しろ彼らには、サンズ・マカオとマリーナベイから上がる巨額の収益がある。それらを株主に配当するよりも、「アジアにおける最後の市場」たる日本にぶち込みたい、と考えていたのである。
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