もう日本に「カジノ施設」は永遠にできないのか 横浜市長選であぶり出された「IR」の無理な構造

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逆に言えば、横浜市がこれまでIR計画に入れ込んできた理由がよくわかる。地元にとって、非常に有利な内容なのだ。おそらくは財務省主税局が「ギャンブルは悪である」との信念から、いびつな制度設計に関与をしてしまったのかもしれない。

今後、大阪やそれ以外の候補はどうなる?

だいたい「ギャンブルの勝ち分に課税する」とはどういう了見なのか。もっとも、それで1兆円の対日直接投資の機会を失ったのだとしたら、「貧すれば鈍する」という言葉がピッタリである。

シェルドン・アデルソン氏は今年1月、87歳であの世に旅立った。ラスベガス・サンズ社は本件について、正しい経営判断をしていたことになる。なにしろ日本におけるIRビジネスは、1度の地方選挙で不可能になりうることがわかったのだから。

アデルソン氏は、ボストンのタクシー運転手の息子として生を受けた。幾多の職業を経験したのち、見本市の運営で財を成した。1995年にコンピュータの展示会COMDEXをソフトバンクグループに売却し、それで得た8億ドルでカジノ業に参入した。

60代で始めた事業が成功を収めて、世界最大のカジノ運営会社のオーナーとなり、総資産350億ドルの大富豪になったのだが、その人生は「ギャンブル」とは程遠いものであった。少なくとも自分のメンツを守るために、巨額の投資を強行するようなことはしなかった。

問題は今後のIRビジネスだ。大阪では、間もなくMGMリゾートとオリックスがIR事業者に正式決定する見込みだ。大阪は2025年の関西万博開催後に、会場となる夢洲でIRを開業したい意向である。幸いにも大阪府と大阪市は、首長も議会も「維新」がガッチリ押さえているから、「IR推進」の方針は当面揺るがないだろう。しかし事業者の立場からみれば、ある日突然、「ギャンブル反対首長」が誕生するリスクは残ることになる。

それ以外には、和歌山県と長崎県が名乗りを上げている。和歌山は観光族である二階俊博自民党幹事長の肝いりプロジェクトであり、長崎はハウステンボスへのIR誘致を目指している。それぞれカナダとオーストリアのIR事業者を選定済みだ。政府は当初IRの開業地を3カ所に絞る方針だが、この2カ所は大阪に比べて小さめのIR開業となるだろう。

世間的には、「いずれ東京都がIRに参入するのでは?」との観測も絶えないところである。なにしろ東京五輪とコロナ対策で過去の剰余金を使い果たした、という事情もある。こちらはまず民意を確認したうえで、将来の2次選抜の機会を待つことになるだろう。

いずれにせよ、横浜市長選挙はIRビジネスにとって大きな転機となる。ここは考えどころで「ウィズコロナの時代」のIRビジネスはどんな形をとるべきか、「仕切り直し」が必要ではないか。IR法案自体はすでに成立している。そして将来の財源を求める自治体は、今後も現れることだろう。

その場合、事業者とファンと地元がもう少し「三方よし」の関係にならないと、このビジネスは持続可能なものにならないと思うのである(本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)。

次ページさて競馬コーナー。札幌のキーンランドカップの勝者は?
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