2学期「子どもの感染拡大防止」に欠かせない視点 デルタ株で重症化の例も、ワクチン接種は有効か

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おそらく、小児ワクチン接種での最大の問題は、この心筋炎・心膜炎だろう。ただ、これについても研究が進み、接種を推奨することがコンセンサスになりそうだ。その根拠は、8月25日にイスラエルの研究者が、『ニューイングランド医学誌』に発表した研究だ。

この研究によれば、コロナワクチンを接種することで、心筋炎・心膜炎のリスクは3.24倍上昇するが、コロナに罹患した場合、そのリスクは18.3倍増加する。デルタ株の流行を考えれば、どちらのほうがリスクが低いかは議論の余地はない。

では、子どもたちへのワクチン接種は、どうすればいいのか。接種希望者や保護者と相談し、個別に判断するしかないが、政府や自治体は、生徒や保護者が接種しやすいような環境を作ることだ。

日本でも一部の自治体は、小児への接種を推進している。筆者が接種をお手伝いしている福島県相馬市では、6月19日から高校生、7月27日から中学生を対象とした集団接種が始まり、夏休み中に接種を終える。

文科省が躊躇する傍ら、なぜ、相馬市では子どもたちに集団接種できるのか。それは、相馬市で成人に対する集団接種が進んでいるからだ。6月1日からは基礎疾患のない64歳以下の市民に対する接種が始まり、7月17日には集団接種を終えた。16歳以上の希望者の93.5%に接種した。

アンチワクチン運動にどう対応するか

子どもたちにワクチン接種を促進するには、社会および保護者のワクチンに対する正確な理解が欠かせない。コロナワクチン接種を進める世界各国で、大きな障害となっているのはアンチワクチン運動だ。

ネット上には、「ワクチンを打つと不妊になる」や「遺伝子が書き換えられる」といったデマがあふれている。医師や政治家の中にも、過度にコロナワクチンの危険性を喧伝する人もいる。このような偏向した主張が、多くの人々を不安にさせ、ワクチン接種を躊躇させる。子どもたちへの接種では、特に問題になりやすい。アンチワクチン対策は、世界が抱える公衆衛生の重大な問題だ。

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実は、こんなことにまで世界では実証研究が進んでいる。5月25日、アメリカの『医師会誌(JAMA)』は「信頼とワクチン接種、アメリカにおける10月14日から3月29日の経験」という論文を掲載した。

論文の結論は、至極真っ当なものだった。著者たちは、アメリカでは当局がワクチンを適切な手続きを経て承認し、大量接種を粛々と進めることで、社会のワクチンへの信頼が醸成されたと結論している。着実に接種を進めることが、アンチワクチン派の勢力が増大する時間的余裕を与えないということだろう。

まさに相馬市がやってきたことと同じだ。相馬市でお会いする市民の中には「ワクチンを打ってよかった。子どもたちにも勧めたい」という保護者が少なくない。

子どもたちへのコロナワクチン接種については、いろんな考え方があるだろう。ただ、状況を総合的に考えれば、私はワクチン接種を勧めたい。リスク以上にメリットが大きいからだ。未成年の1年間は大きい。ワクチンを接種し、勉強や課外活動に勤しんでもらいたい。

上 昌広 医療ガバナンス研究所理事長

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かみ まさひろ / Masahiro Kami

1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。

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