陸自隊員の銃装備が「お寒い限り」と断言できる訳 知見乏しく諸外国の動向に無関心で調達も不効率

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20式小銃(左)と89式小銃(筆者撮影)

その89式も平和ボケの産物と言っていい。一般的にアサルトライフルの安全装置は左側か両方に装備されている。これは(右利きの)射手がグリップを握ったまま迅速に操作を可能とするためだ。昨今では左利きや市街戦などで、左手でグリップを握って射撃する際に有利なように両側に装備されている。だが89式はそれ以前の64式同様に右側に安全装置を装備した。このため右利きの射手はグリップを握ったまま操作ができない。左利きの射手にしても安全装置の位置が悪いので握ったままでは操作できない。

これはイラク派遣という「実戦」になって問題となった。このため派遣部隊用の89式には右側にも安全装置が装備された。ところがイラク派遣終了後この左側の安全装置は取り外された。普段の「訓練」だけが仕事になるからいらない、ということだろう。しかしその後に市街戦の重要性が認識されて再び装着されることとなった。

陸自はオーストラリアで毎年春に開催されている豪州陸軍主催の射撃競技会、AASAM(Australian Army Skill at Arms Meet)に2012年から参加している。

初回はビリから2番目だった。サバイバルゲーマー以下の知識で競技に臨んだからだ。競技会に備えて民間の訓練会社が訓練を申し出たのに、「われわれは軍事のプロだ。民間人ごときに教えを乞う必要はない!」と突っぱねた。ところが、他国は数倍のスコープを使って射撃する競技で等倍のドットサイトを使って参加した。

まさに井の中の蛙、大海を知らずだった。その後民間の教えを受け入れて上位に入るようになった。ただ、問題はそこでの知見が、装備調達にまったく生かされていないことだ。総じて見れば陸自普通科携行火器に関する知見が乏しく、諸外国の動向に無関心で、調達は天下り先の国内企業に仕事を作ることが目的化している。

先進国レベルとは言えない

とても先進国レベルとは言えず、人民解放軍はもちろん、中進国の韓国、シンガポール、南アフリカなどはもちろん、日本からODAを受けているトルコやヨルダンなどからも遅れている。しかも調達計画がずさんである。

最大の問題は陸自にその自覚が欠如していることだ。「どうせ戦争なんぞ起こらない」とタカをくくっているのだろうか。

組織的に当事者意識と能力、そして想像力が欠如している。プロとしては失格レベルだ。だからイラク派遣という「実戦」が決まったら、大慌てで装備の改修を行った。だがそれが終わればキレイに忘れてしまう。組織の文化に根ざしているだけに問題の根は深い。

清谷 信一 軍事ジャーナリスト

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きよたに しんいち / Shinichi Kiyotani

1962年生まれ、東海大学工学部卒。ジャーナリスト、作家。2003年から2008年まで英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』日本特派員を務める。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関Kanwa Information Center上級アドバイザー、日本ペンクラブ会員。東京防衛航空宇宙時評(Tokyo Defence & Aerospace Review)発行人。『防衛破綻ー「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『専守防衛-日本を支配する幻想』(以上、単著)、『軍事を知らずして平和を語るな』(石破茂氏との共著)など、著書多数。

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