日本人は最低賃金を抑え込む事の弊害を知らない 労働者を買い叩き続ける限りデフレは終わらない

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スウェーデンは、1990年代以降、労働生産性においても、そして実質賃金においても圧倒的にOECDの平均値を上回って成長してきている。国民にきちんと報酬を支払う国の労働生産性は上昇し、そして国民の生活も豊かになると言っていいのかもしれない。

日本の最低賃金制度は、厚生労働大臣の諮問機関である「中央最低賃金審議会」が審議して決定する。詳細な仕組みは省くが、管轄が経済政策とは無縁の厚生労働省であること、そして最低賃金の最終決定者が、やはり経済政策の専門家ではない都道府県の労働局長であることには疑問がある。

さらに、2021年には「最低賃金が過去最高額になる」とする同審議会の答申が発表されるや、日経ビジネスオンライン8月16日発信によると、中小企業によって構成されている全国中小企業団体中央会、日本商工会議所、全国商工会連合会といった団体から、「到底納得できるものではない」と言う声明が出されている。

確かに、コロナ禍の中で集中的に犠牲を強いられている飲食店や小売業者などの現場では、大幅な最低賃金の上昇は死活問題となり、深刻な影響が出ると予想される。しかし、それでも欧米諸国は、この時期に大幅な最低賃金上昇を打ちだしてきた。そもそも最低賃金が抑えられてきた原因としては、次のようなファクターが考えられる。

終身雇用制の影響も

1.労働組合の衰退

労働組合の衰退も最低賃金の上昇を阻んでいる。例えば「労働争議による労働損失日数」というデータを見ると、日本の労働争議がいかに少ないか一目瞭然だ。日本は労働争議をほとんどしない、といっても過言ではない。2018年の1年間で、次のような結果となっている(資料出所 データブック 国際労働比較 2019)

・日本……1000日
・アメリカ…… 282万日
・イギリス…… 27万日
・ドイツ…… 57万日
・フランス…… 103万日(2014年)
・韓国…… 55万日
・オーストラリア…… 11万日

2.経営判断による最低賃金の意図的な抑制

日本企業は、現在でも終身雇用制にこだわるところが多く、若年層の正社員に対しては数を絞って、単純作業などは正社員ではなく非正規社員に依存する経営方針を固めたため、意図的に最低賃金を低くしていると考えられる。

こうした背景には、雇用する側が強い力を持っていて割安で労働力を調達できる状態がある。いわゆる「モノプソニー」と呼ばれる状況だが、早い話が小泉政権時代に進められた非正規雇用に対する大幅な規制緩和に由来するものだ。

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