「安全保障に原発必要」は本当?被爆科学者の答え 原爆投下76年、あらためて考える「戦争」と「核」

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

しかし世界は、核兵器禁止どころか、その後も安全保障を核兵器に頼む状況が続く。核兵器の拡張競争もやまない。

これに対し、湯川博士やノーベル物理学賞受賞者の朝永振一郎博士は1975年、「軍備管理の基礎には核抑止による安全保障は成り立ちうるという誤った考え方がある。したがって、もし真の核軍縮の達成を目指すのであれば、私たちは、何よりも第一に核抑止という考え方を捨て、私たちの発想を根本的に転換することが必要である」という「湯川・朝永宣言」を発表した。

湯川氏は戦中、京都帝国大学の原爆開発「F研究」に加わっており、沢田さんは「核兵器をなくす行動を熱心にされたのは、(F研究に)関わったことへの後悔の思いを持っておられたからではないか」と振り返る。

では、湯川・朝永両博士と行動を共にした沢田さんは、原発と核抑止について、どう考えているだろうか。コロナ禍のため、名古屋に出向くことを控え、沢田さんとは電話による取材が長く続いた。原発については「やめるべきだ」と即答である。

「原発は安全に処理できません。原発を動かすと、放射性廃棄物が地球上にどんどんたまる。世界中で原発をやっているので、廃棄物が増え続けている。許してはいけない。原発は使ってはいけないと思います。日本は山や川が多い。自然エネルギーを使える優れた環境にあるのに原発をやっている。逆をやっている。自然エネルギーに転換することで原発をなくせば、本当に豊かになると思う」

軍事力で何かをやるというのは時代遅れ

では、核抑止力に基づく安全保障の考え方についてはどうだろうか。

「戦争では問題は解決しないことを人類は学びました。国際紛争は話し合いでしか解決しないのです。軍事力で何かやるというのは時代遅れ。日本も韓国も北朝鮮も含めて話し合いでやっていく態勢を作れば、戦争のない人類社会を実現できる。そうすれば、日本は軍事力に使うお金をコロナ(対策)に回して人を助けることもできます」

核兵器禁止条約が発効したのは、今年の1月22日である。その前日の時点で、地球上には1万3000発以上の核兵器があった。核兵器の使用、保有、開発、実験などを一切禁じるこの条約を批准した国・地域は今年の8月6日現在55。核保有国および日本を含む「核の傘」に依存する国々は署名・批准していない。

実は、沢田さんの電話インタビューでは、核抑止に関する部分で「石破さんの核抑止力の発言は時代遅れだと思う」との言葉が飛び出した。防衛大臣なども務めた自民党の実力者、石破茂氏のことを指している。沢田さんに古くさいと言われた、石破氏の主張とは「原発政策を議論する際には、安全保障問題としての核抑止力を考慮せよ」というものだ。そこで今度は、石破氏にインタビューすることにした。

(石破氏のインタビューは8月22日配信予定)

青木 美希 ジャーナリスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

あおき みき / Miki Aoki

札幌市出身。北海タイムス(休刊)、北海道新聞を経て全国紙に勤務。東日本大震災の発生当初から被災地で現場取材を続けている。「警察裏金問題」、原発事故を検証する企画「プロメテウスの罠」、「手抜き除染」報道でそれぞれ取材班で新聞協会賞を受賞した。著書「地図から消される街」(講談社現代新書)で貧困ジャーナリズム大賞、日本医学ジャーナリスト協会賞特別賞など受賞。近著に「いないことにされる私たち」(朝日新聞出版)

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事