「安全保障に原発必要」は本当?被爆科学者の答え 原爆投下76年、あらためて考える「戦争」と「核」

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佐野さんは、被爆者であることを長く明かさなかったという。なぜですかと問うと、こんな答えが返ってきた。

「僕が被爆者だと話すと、被爆者づらをするなと言われる。高度成長の中で不景気なことを言うな、と。弟子たちにも被爆者とはいっさい言ってなかった」

福島原発の事故から10年以上が経過し、各地に散ったままの原発避難者たちは自ら避難者であることを明かしにくくなっている。「いくら賠償金もらっているの」「いつまで被害者のつもりでいるのか」などと言われ、バッシングの対象になりかねないからだ。佐野さんが口をつぐんできた事情とそっくりなのかもしれない。

ただし、佐野さんには転機があった。東京都立大学の総長を退任し、大妻女子大学の教授を経て2000年に学長に就任した際、「人生で一番つらかったことをテーマに講演してください」と依頼され、被爆体験を初めて公の場で話した。母を捜して広島市内をさまよったこと、広島市に入ったとき、太田川河口で背びれを失い、ウロコが半ば焼け落ちてふらふらと漂う「泳ぐ焼き魚」を見たこと。自分が描いた絵やほかの被爆者が描いた絵も見せた。教室は静まりかえっていたという。

「みんなしっかり聞いてくれて、いいレポートもくれた。『初めて原爆の実情を知って驚いた』『皮がめくれて膿(うみ)がでているようなところまでの話は初めて聞いた。生々しい話だった』と。それから小学校や高校でも話すようになりました。みんな熱心に聞いてくれます」

かつては核兵器と原発を切り離して考えていた

佐野さんは福島第一原発の事故まで、核兵器と原発を切り離して考えていたという。「原発には5重の防護があって安全だ、と。国民はそう刷り込まれてきたし、私も平和利用であれば、(日本を)良いほうに発展させられるからいい、と。80%パーセントぐらいはそう信じていた」からだ。今は、その考えに立っていない。

「原発事故を起こし、核実験で汚れていた地球をさらに汚してしまった。ドイツのように日本は早く原発をやめるべきだ。(原発による)被曝当事者の国が真っ先にやめられないとは……。首相が賢ければやめられる。自然エネルギーでやっていける」

佐野さんは、東京の被爆者の会「東友会」で顧問を務めている。その東友会も参加する日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)は「福島原発の事故による被害者には、もれなく健康管理手帳を交付し、年1回以上の定期検診を国の責任で行うこと」を政府に何度も求めてきた。

原子爆弾の被爆者に交付される被爆者健康手帳では、医療費の自己負担はゼロになる。佐野さんの2度の大腸がん手術も、この手帳のおかげで費用負担はなかったという。

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