東京五輪を仏メディアが「意義深い」と評価した訳 「競技場外で想定外の問題提起があった」と指摘
アメリカで黒人のジョージ・フロイド氏が白人警官に膝で首元を押さえられ、結果的に死亡した事件を受け、サッカーの試合前にポピュラーになっているのが、選手全員で膝をつく差別への抗議だ。これを女子サッカーのイギリス代表チームが行った(日本とイギリスの対戦では日本代表も膝をついた)。
政治的表現が許されないはずの五輪で、こうした行為が許されたのは、差別禁止や人権を普遍的価値観と見なしたからだった。これは近代五輪憲章が掲げる普遍的価値観に一致している。この出来事は時代の流れでもあり、今まで見落とされてきた問題に光が当たり、今後、議論が深まり、五輪のあり方にも大きな影響を与えそうだ。
パリ五輪への期待と不安
ル・モンド紙は「パリ五輪は、フランスの多様性を世界に示すだけでなく、健康不安、分裂、衰退に苦しむフランス人を鼓舞する特別な機会だ」と書いた。さらにパリ五輪は「健康危機に苦しんでいる何千ものスポーツ協会にとって、新鮮な空気を吹き込む機会だ」として期待感を示した。
一方でフランス唯一のスポーツ紙、レキップは「フランス五輪組織委員会のトニー・エスタンゲ委員長は、フランス国民の心に火を点けるのに苦労している」と書いている。
フランスはスポーツが日常生活に定着し、同時にテニスのフレンチオープン、ツールドフランスをはじめ、毎年、国際大会が目白押しだ。そのため、新規建設しなくてもパリ五輪に使える既存施設が少なくない。フランスはあらゆるスポーツの普及を優先し、スポーツを国民に定着させることに心血を注いできた。
「スポーツの定着に努力し、実践してきた学校や町のスポーツクラブで働く体育教師やインストラクターたちにとっては、パリ五輪は大きな力になるはず」という期待感もル・モンド紙は書いている。
ただし、その中から優秀なアスリートが輩出されるという期待が実現しているのかといえば、今回のメダルの数(全体で8位)は物足りないというのが実感だろう。フランス国内には「アメリカ、イギリスのようなプロ化のプログラムの充実が必要」という指摘もある。
パリ五輪に火を点けられるかどうかは今後の課題だ。とくに「意義」という意味では、移民を多く抱える多文化社会で、いまだにイスラム分離主義的なテロが頻発し、イスラム教への寛容さを示せないフランスが多様性を自慢できるかといえば、道半ばというしかない。
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