大江千里が「東京五輪に抱いた違和感」の正体 「五輪開催を知らないアメリカ人」さえいた

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現在ニューヨーク在住のジャズピアニスト・大江千里氏が東京五輪に抱いた違和感の正体とは? (写真:VCG/Getty Images)
人々が自粛を強いられる不平等な状況下で金銀銅を決めるイベントをやる必要は本当にあるのか。ここまで犠牲を払って目くらましのようなイベントをやる意味を、世界は冷静に見ていると思う。

イタリアンの店員「見るわけないじゃん」

アメリカに住んで13年になるが、オリンピックに夢中になる人を見かけたことがない。そもそも今、東京五輪が開催されていることすら知らない人もいる。

当記事は「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)からの転載記事です。元記事はこちら

それでも先日、珍しいことが起きた。イタリア料理店で「オリンピック開会式を見たの?」と、イタリア出身の店員に聞かれたので「え? 君は見たの?」と聞くと、けんもほろろに「見るわけないじゃん」と大笑いされた。店の人たちは僕が日本人だとわかっていたと思う。妙な雰囲気で、何人かから「お気の毒」という感じの失笑があった。

今回は特殊な状況というのを差し引いても、普段スポーツバーに入りきれないほど人が集まり大盛り上がりするサッカーやバスケットに比べ、世界的スポーツの祭典オリンピックがなぜこうも話題にならないのか。僕が思うに、人種の多様さゆえじゃないか。アメリカではアメリカ選手団の試合しか放送しないので、多様性のある国民からすると「別に見ても見なくてもいいや」となる。

独占放映権を持っているNBCの放送は、何度も長いCMに中断されスポーツ観戦の味わいがない。開会式直前のCBSの放送では、「国民が懐疑的なこの大会、空っぽのスタジアム、毎日2000人もの感染者が出ている状況がセレモニーに反映されている」とアンカーと特派員が言いたい放題だ。日本人の僕が思う五輪の高揚感からは程遠い。

開会式を見た。日本人にしかわからないアイウエオ順の行進にそうしなければならない特別な理由があったのだろうか? とにかく抽象的すぎるダンスが延々と続き、だんだんと眠くなる。聖火ランナーには医療従事者や子どもたちが出演させられている。この状況で彼らを危険の中へさらすのを見て嫌な気持ちになった。

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