双子の元Jリーガーが語る「アスリートのうつ」 「経験を伝えたい」と現役時代の闘病記を本に

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次第に、取材に答えられない、思考能力の低下、不眠、倦怠感、動悸、憂鬱、自信喪失、ネガティブ思考、体が重い、動かない、自宅に引きこもる、といった経過をたどる。精神科に通い、薬物の投与も受けた。「オーバートレーニング症候群」「慢性疲労症候群」を理由に練習を離れた。「『うつ病』とは公にできなかったですね。症状は同じです」(浩司さん)。

2人とも責任感が強く、まじめな性格で、「褒められたい」という承認欲求が強かった。「チームが負ければ自分のせいだと考える。もっと自分はうまくプレーできるのに、と自分を追い詰めた」(和幸さん)。

浩司さんは一時、死にたいと思うほど追い詰められ、早く治りたいと、治療薬を1日に30~40錠と大量に飲んでしまい意識を失って倒れたこともあった。薬だけでは治らないと痛感した2人は、物事の考え方を変える精神療法にシフトする。「性格は変えられない。でも考え方は変えられる」という、医師との対話を軸とした治療だ。双子はライバルだったが、時として医師に相方の症状を説明する、支え合う存在でもあった。

苦労したのが「80%の力を出せばいいから」というアドバイスだった。アスリートはつねに100%の力を出し、頂点を目指し、実績をキープすることを迫られる。そこを「『ミスしたらどうしよう』ではなく『次に挽回すればいいや』と考えることにしました」と浩司さんは振り返る。

ともに引退後は発症していない。「現役時代は寝るのも食べるのも生活すべてが仕事で気が抜けない。それがなくなったからでは」と和幸さん。また治療の過程で、「いい意味で『開き直る』ことを身に付けたから」と浩司さんは言う。

「弱み」を見せられる人は強い人

うつ病は、休む時より復帰する時が難しい。自分の居場所はあるのか、受け入れてもらえるのか、といった不安だ。和幸さんは休養期間中、サッカーをやめようと、パソコンで求人情報の検索までした。だが妻の「中途半端に辞めてもどこも雇ってくれない」という言葉で思いとどまる。「大きな決断は、調子のいい時にする」という医師の助言もあった。

和幸さんは、復帰したときサポーターがスタジアムに、「何度でも言うよ、カズおかえり」という横断幕をかけてくれたことを忘れない。

「最初、妻は子供を実家に預けていましたが、途中から再び家族一緒になりました。子供たちに僕の様子をすべて見せた。『絶対に治る』と信じてくれたからだと思います。妻には感謝しかない」と和幸さん。浩司さんも「家族と一緒に乗り越えたという思いが強い」と振り返る。周囲の理解と支えが、二人を後押しした。

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