「中国バブル崩壊」はいつ起きるのか 青島の融資詐欺事件でわかった、深刻な構造問題

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一方、金を貸した銀行側からすると、一応担保を預かっていることになるので、2%前後(米ドル)の低金利で貸し付けても不安はない。この2%前後で借りた運用資金を「年利10%程度の理財商品」で運用して、差額の8%が利益になるという単純な儲け話なのだ。

高をくくっている業者

業者に言わせれば、「詐欺になる要素」の部分は、「預かり証を偽造しただけ」で、もし、公安当局の調査で捕まっても、経済犯罪としては大した罪にならないと高をくくっている。だから、同様の犯罪はいくらでも起こるわけだ。早い話が、捕まりそうになったら3か月以内に借入金を返済して、偽造した預かり証を破棄すれば手仕舞いができる、という寸法である。

この事件の背景には、「バブルによるカネ余りが起きているのだが、今は不動産が高止まりするどころか、下落し始め、誰も資金の借り手がいない。だから金融機関も、すべて判っていて貸し付けている」という見方もあるのだ。実体面では、すでに不動産は下落しているから、今後は不良資産になりそうな不動産を売って、商品相場の方で資金を運用した方が、よほど安全だと見る金融筋もいるということだ。それゆえ、偽担保とわかっていても、「数カ月だけでも借りてくれるなら問題はない」と安易に考えているのが、現場での一つの感覚である。

事件が注目された6月以降になると、さすがに多くの金融筋も「二重担保のリスク」に「気がついた」(実際は前からわかっていたが、ようやくわかったという形にした)ので、当然融資は差止めにした。一方、含み益を貯め込んでいる「確信犯」の連中にとっては、別に困ったことではない。公安当局に賄賂を渡しながら、問題を軟着陸もしくは先送りさせたというのが、消息通の見方である。

もちろん、さすがにメンツもかかっているため、中国の銀行監査当局は、真剣にこの事件を問題視した。彼らは4月以降の銀行融資の調査に入ったが、商品担保融資の中心は欧米大手銀行であり、調査に協力すると云いながら実態面では融資残高などをディスクローズしたという情報は聞いていない。

中国経済の先行きが不透明な中で、中国発のデフォルト(債務不履行)が本格的な取り付け騒ぎにならないようにソフトランディングを目指している金融当局にとっても、面子問題にもなりかねないから痛し痒しである。

だから、筆者はこの3か月ほどで多重担保の預かり証問題は大方、消滅したと見ている。中国政府としても地方政府で発生したデフォルト(債務不履行)は9省で今年3月末までの返済期限が到来した借金のうち大半を借り換えなどで先送りしたようだ。

6月末の中国の審計署(会計検査院)の調査によると、偽装された金取引の担保に944億元(152億ドル)の銀行融資を受けていた実態の報告書が最近出された。当局は、特に問題となっている青島港の金属担保融資の詐欺容疑を重く捉えており、全国的に取り締りの強化が加速している。

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