20年度は4.7兆円、巨額の公共事業費を使い残す訳 ハードとソフト組み合わせた防災対策の重要性

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公共事業費を使い切れないのは、政治圧力で補正予算を無理に増額していることが主因だが、公共事業を請け負う民間業者のキャパシティーに限りがあることも制約となっている。建設や土木の職業の有効求人倍率はこのところ4倍を超えており、人手不足が常態化している。

もちろん、予算を年度内に無理に使い切る必要はない。しかし、繰り越されることがあらかじめわかっているのに前年度の補正予算を増額するぐらいなら、消化できる適正な規模で当年度の当初予算に計上すればよい話である。

省庁横断的な工夫で防災

公共事業を請け負える量に限りがあるから、防災はハードだけに頼れない。ソフト面の防災にも注力する必要がある。その観点から、防災のための公共事業費の使途にも近年工夫がなされ始めている。

豪雨防災の分野では、国が管理する一級河川はすでに「流域治水」という発想で、関係省庁が垣根を越えて一元的に被害軽減を推進する取り組みを始めている。治水は国土交通省の所管で、同省は治水ダムや堤防の強化を担ってきたが、他の省庁が担うもので治水に役立つものは多い。

例えば、農林水産省や厚生労働省、経済産業省が所管している利水ダム(産業用等に用いるダム)を治水に活用したり、財務省が所管している国有地で遊水機能を活用。文部科学省が所管している学校の校舎等の防災機能向上や防災教育のほか、金融庁が所管している保険等を通じた浸水対策や居住誘導を行ったりしている。省庁横断的にハードとソフトの対策を組み合わせることで、一級河川の流域全体で効果を上げようというわけである。

2021年度予算からは、新築住宅にかかる政策金融支援(住宅ローンの借入金利を一定期間引き下げる)や住宅関係の補助事業において、災害リスクの高い区域を支援や補助の対象外とした。災害リスクが高い区域とは、建築物の建築の禁止が定められた災害危険区域や土砂災害特別警戒区域である。そのような地域に新築住宅を建てる場合、今後起きかねない豪雨災害で被害が避けられない。それを未然に防ごうというわけである。

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