45歳の証券マンが脱サラ「CG界へ転身」決意の裏側 「ミレニアム・ファルコン」を作った男の半生
3か月の短期コースを修了したあとは、就職活動である。学位などはない。学んで身に付けたスキルと、講師や友人とのコネクションがこのコースで得られるすべてだ。
CGスクールが開催する就職イベントのために、自分の作品を収めたデモリールを作る。このイベントでは何とか10社程度のリクルーターにデモリールを見せることができ、うち3社は多少の興味を示してくれた。少し希望を持ったのだが、残念ながらいずれの会社にも断られてしまった。
悔しかったのは、あるCGスタジオがクラスメートだったイタリア人2名をインターンとして採用したことだ。この知らせを聞いて、私は素直には喜べず、激しい焦りと嫉妬を覚えた。タダ働きであっても、とにかく自分のスキルをアピールするチャンスが欲しかったのは私も同じだったからだ。
起死回生の仁王像
次回こそ、プロの要求に応えられるデモリールを用意しなければならない。どんなCGモデルを作れば、強い印象を与えられるか。
CGモデルは大きく分けて人間や生き物などのオーガニック系と、工業製品などのハードサーフェス系の2種類があるが、まだプロではない人間としては2種類ともできるところをアピールしたい。
ハードサーフェス系の目玉は、バイクにする。車や飛行機のボディラインは美しいが、単調だ。バイクであれば、エンジン周りの複雑な形状やカウルなどの優雅な曲線を見せられる。
では、インパクトのあるオーガニック系モデルは何にすれば良いだろう。ふと、正月に帰省した際に見た、東大寺南大門の仁王像を思い出した。これだ。あの造形には心を揺さぶられた。
制作に取りかかって10日後、圧倒的な威圧感を備えた仁王像が完成した(CGスタジオへの応募では、モデルの出来だけでなく、制作期間も重要になる)。
自分にできることはすべてやりきった。渾身のデモリールを30社に発送し、あとは待つだけである。発送して数週間が経っても、どのスタジオやリクルーターからも反応は返ってこなかった。
本当に自分の選択は正しかったのか。家族を犠牲にしただけではなかったか。収入はなく、蓄えは住宅ローンの支払いで目減りしていく。健康保険にも入っていないから、病気にもなれない。人生において、この時ほどつらく長い日々はなかった。
しかし、あるスタジオからの連絡で、私のCGアーティスト人生は少しずつ動き出したのである。
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