まるでシーソー?日本のワクチン政策の「現在地」 過去の「予防接種行政」から現状を考える

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戦前から戦後にかけては、国民の健康にとって最大の脅威は感染症であった。当時の政府にとって、多くの国民にワクチンを接種し、感染症を抑え込むことは最重要課題であり、当時の欧米諸国と比べても多くのワクチンを法定化し、罰則付き義務接種・集団接種制度の下で政策を強力に推進した。

その後、ワクチン接種の普及により感染症が減少したことや、経済成長に伴い衛生状況も向上したことで、感染症による脅威が相対的に低下。予防接種行政の不作為過誤のリスクが減少したことに伴い、作為過誤の側面がクローズアップされるようになる。

社会防衛から個人防衛へ

作為過誤に焦点を当てた相次ぐ予防接種禍訴訟で国が敗訴したことを受け、1994年に予防接種法が改正された。これにより、予防接種行政の思想は社会防衛から個人防衛へと変化し、ワクチン接種の体制は集団接種から個別接種へ、義務から努力義務へと緩和された。これは作為過誤回避の政策であり、政府の役割は後退した。

しかしその結果、国民の風疹等の各種ワクチン接種率が低下すると同時に、欧米に比して法定ワクチンの数も少ないという状況に陥った。そして、政府は、今度は「ワクチンギャップ」という不作為過誤を引き起こしているとして非難されることになる。

こうした中、2010年代に入ると、政府はワクチンギャップ解消に向けて新たなワクチンを予防接種法上の定期接種に加えるなど、不作為過誤回避の方向に舵を切り直した。

しかし、2013年4月に定期接種化されたHPVワクチンの副反応のおそれが社会的問題となる。同年6月、政府はHPVワクチンの積極的な接種勧奨を差し控える旨を決定し、再び作為過誤回避の方向に舵が切られたとも言える。

一方、HPVワクチンの効果に対する医学的コンセンスは得られていることから、子宮頸がんなどに苦しむ患者を減らすべく、HPVワクチンの積極的な接種勧奨再開(不作為過誤回避)に向けた医学界などによる大きなうねりが見られる。

ワクチンは、感染症に対して非常に有効な手段であり、厳正な薬事審査を通じて有効性と安全性が確認されたうえで、承認され、使用される。一方、副作用のない医薬品が存在しないのと同様、健康人の生体に対して人為的に免疫反応を惹起させるワクチンにも、接種によって発生する人体の好ましからざる反応(副反応)は存在する。

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