まるでシーソー?日本のワクチン政策の「現在地」 過去の「予防接種行政」から現状を考える

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ワクチン忌避の拡散には、多くの国々でメディアが大きな役割を負っている。ワクチン忌避運動をそのまま報道することでワクチン忌避を煽動するメディアもあれば、ワクチンの有害事象を副反応と混同してあたかもワクチンに疑義があるかのように報道するメディアもある。また、SNSによる誤情報の拡散も大きな役割を果たしている。

予防接種行政をめぐる問題は、純然たる医療・公衆衛生の知見だけで解決できるものではない。ワクチン忌避をいかに抑制するか、その中でメディアにいかなる役割を求めるかなど、コミュニケーションの領域が極めて重要である。社会集団においてワクチンの効果を広く得るためには、効果的なコミュニケーションによってワクチンの安全性に対する信頼性を維持し、多くの人にワクチンを接種してもらうことが不可欠である。

日本のワクチン接種は遅れているのか

作為過誤回避と不作為過誤回避のシーソーの傾きという観点では、コロナワクチンをめぐる問題は、政府の不作為過誤に焦点が当てられているようである。つまり、国民を新型コロナ危機の脅威から守るために政府が行うべきワクチン導入と接種拡大が遅いという非難である。

実際、2021年3月末の時点では、世界の4%、日本人の0.7%が最低1回のワクチン接種を行っており、この時期の日本のワクチン接種率は世界平均と比較して低かったため、日本政府の不作為過誤がクローズアップされた。

しかし、5月以降、日本政府・地方自治体・医療従事者の奮闘によりワクチン接種が急激に拡大。8月10日時点で、日本は48%まで増加し、ほかの先進国を一気に追い上げている(カナダ72%、イギリス70%、フランス67%、イタリア66%、ドイツ62%、アメリカ59%、世界30%)。新型コロナ危機における不作為過誤回避に向けて、関係者の努力が続いている。

新型コロナ危機に至るまでの予防接種行政をめぐる歴史は、以下のような揺らぎをたどってきた。

• 不作為過誤回避(戦後の感染症拡大阻止)
• →作為過誤回避(数多の予防接種禍訴訟の結果による行政の積極介入低下)
• →不作為過誤回避(ワクチンギャップ解消)
• →作為過誤回避(HPVワクチンの問題)
• →不作為過誤回避(新型コロナ危機下のワクチン接種拡大)

次はどちらにシーソーが傾くのか。国会・政府・メディア・国民による予防接種行政への理解が深化し、国民の健康を守るために建設的な議論が展開されることを期待したい。

阿部 圭史 政策研究大学院大学 政策研究院 シニア・フェロー

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あべけいし / Keishi Abe

政策研究大学院大学 政策研究院 シニア・フェロー、医師。専門は国際政治・安全保障・危機管理・医療・公衆衛生。国立国際医療研究センターを経て、厚生労働省入省。ワクチン政策等の内政、国際機関や諸外国との外交、国際的に脅威となる感染症に対する危機管理に従事。また、WHO(世界保健機関)健康危機管理官として感染症危機管理政策、大量破壊兵器に対する公衆衛生危機管理政策、脆弱国家における人道危機対応に従事。著書に『感染症の国家戦略 日本の安全保障と危機管理』、『コロナ民間臨調報告書』(共著)。北海道大学医学部卒業。ジョージタウン大学外交大学院修士課程(国際政治・安全保障専攻)修了。

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