プロ野球諦め米国へ渡った37歳水中考古学者の夢 世界中の水中遺跡発掘に関わる山舩晃太郎氏

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渡米前、水中考古学の本を眺めながら、いつかここに載っているすべての遺跡に行って研究したい、と思っていた。しかし現実には特定の国を拠点とする研究者がほとんどで、一人が手がける調査は多くても5、6カ国。当時は世界中の遺跡を研究する水中考古学者はいなかった。

それなのに、フォトグラメトリをきっかけに、山舩さんのもとには世界中の研究機関からオファーが殺到した。「現場で経験をもっと積み、船舶考古学の研究者として、世界中の研究者たちと研鑽(けんさん)を積んでいきたい」。そう考えた山舩さんは大学院を修了後、研究員としてテキサスA&M大学に残るのではなく、個人として依頼を受け、世界中のプロジェクトに参加する道を選んだ。

世界各地の発掘におけるエピソードは、著書『沈没船博士、海の底で歴史の謎を追う』に詳しい。発掘プロジェクトへの参加のほか、特別講師として各国のキャンパスやフィールドで指導にあたることも多く、2019年は10カ月も海外で過ごしていた。日本に戻っている間も国内の大学との共同研究や学生への指導にあたり、実家のある鳥取県にはほとんど戻らなかった。

水中考古学の認知度を上げたい

その後、新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大。2020年3月、スペインでプロジェクトに参加していた山舩さんもその渦に巻き込まれ、予定をキャンセルして帰国せざるをえなかった。海外での予定はすべて白紙になり、アルバイトでもしながらコロナ禍のおさまりを待とうかと思っていたところ、書籍化や講演、共同研究など国内での依頼が舞い込むようになった。

改めて国内の事情を見ると、島国ゆえ沈没船は山ほどあるはずだ。近年は海岸浸食の影響で、砂浜から露出した沈没船の一部が見つかる可能性も高くなっている。しかし「海岸を散歩中の人が砂浜で船の一部を見つけたとしても、その木片が貴重な資料だとは思わないのではないか。これが子どもたちでも興味・関心のある恐竜の骨だったら、多くの人に気づいてもらえるのに」。

発見があってこその研究。多くの人に沈没船の痕跡を見つけてもらうためには、水中考古学の認知度を上げることが重要だと山舩さんは考えている。

『沈没船博士、海の底で歴史の謎を追う』(新潮社)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

また、「水中の沈没船から財宝を探し出すトレジャーハンターは、遺跡の破壊者」とも訴える。彼らは財宝を探しやすくするため、まず沈没船本体を壊してしまうからだ。「お宝発見をロマンだと勘違いしている人が多い」。この現状を伝えるためにもラジオ番組などに積極的に出演し、水中考古学について広く知ってもらえるよう努めている。

野球で挫折し、苦しんでいたころは、このような未来が待っているとは思いもしなかった。

だから、もしも今、夢に手が届かず苦しんでいる人がいれば、努力はもちろん大切だが、ほかにもっと夢中になれるものがないか、探すことも大切だと考えている。そして、好きなことが新たに見つかったときには、変化を恐れず一歩を踏み出してほしいと願う。

心から楽しいことなら努力は苦でなくなる。そして山舩さんがアメリカで一から挑戦していったように、自分で道を切り拓いていけるようになるだろう。「楽しくて仕方がない」。今もそう言って笑顔を見せる山舩さん。挑戦はこれからも続いていく。

吉岡 名保恵 ライター/エディター

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よしおか なおえ / Naoe Yoshioka

1975年和歌山県生まれ。同志社大学を卒業後、地方紙記者を経て現在はフリーのライター/エディターとして活動。2023年から東洋経済オンライン編集部に所属。大学時代にグライダー(滑空機)を始め、(公社)日本滑空協会の機関誌で編集長も務めている。

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