「子どものトラブル」大人が関わるときに重要な事 工藤勇一氏が説くいじめを学びにつなげる支援

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ただ、「いじめに対して今でも昔の定義のような印象を持っている人もいれば、日常のトラブルという印象を持っている人もいる」ことが、問題を大きくしてしまうこともあるという。

本来「単なる日常的なトラブル」などとして子ども間で解決できるようなケースでも、片方が「いじめ」と認識し、過剰に反応してしまう場合があるからだ。

工藤さんは「いちばん大事なことは、子どもが自分の足で人生を歩んでいくこと」と話し、自律の重要性を訴える。

「子どもたち同士の間では、絶対にトラブルが起こります。それを『いじめ』だと特定することは重要ではなく、まずはそこにどんなトラブルが発生しているかを把握し、そのトラブルは子どもたち同士で解決できるのか、できないのかを大人が見極めていくことが大事です。

そして、トラブルを起こした子どもたちがよりよい生活を送れるよう、トラブルを学びに変えていく。大人は、そのための支援はどうすればいいんだろうということを考えていかなくちゃいけないんです。

そうすれば子どもはトラブルが発生すればするほど、親や教師を信頼するようになり、学校を安全な場所だと思うようになります」

子どもへの問いかけで当事者意識を育てる

子ども自身に対しては、「解決する当事者だという意識を高めていかなければいけない」と工藤さんは話す。

「いじめはすべて大人が解決するものだと勘違いしている子どもがたくさんいます。それを当たり前だと思うようになると、解決できないことが出てきたときにほかの誰かのせいにするようになります」

2020年まで校長を務めた麹町中学では、生徒同士がトラブルを起こしたとき、決して頭ごなしに叱ったり、相互に謝らせたりして収束させることをしなかったという。

「本人の気持ちに寄り添うことが必要です。そのうえで『謝らなかったら明日からどうなるか』と考えさせると、『ずっと友達といがみ合うことになる』と認識をしてくれます。

子ども自身が自己決定してよい方向を選び取ることができるよう支援をしていくこと。決して簡単なことではないですが、その一連の流れこそが『教育』というはずなんです」

子ども自身に考えさせる習慣を付けさせるために工藤さんが推奨するのは、周囲の大人が次の3つの言葉を使うことだ。

「どうした?」「どうしたいの?」「手伝ってほしいことはある?」

「疑問形で聞くから、子どもは自己決定しないといけなくなるんです」と話す。

なお、工藤さん自身は教育現場で「いじめという言葉を使わない」という。

「この言葉は子どもたちをよくない方向に動かす可能性があります。いじめに対して過敏に反応してきた子どもたちは、すぐに『いじめだ』と冷やかします。

でも、教員がいじめという言葉を使わず一つひとつのトラブルを具体的に話していくと、子どもたちも『こういう原因があって今あの子が孤立している』と、『いじめ』という言葉を使わずきちんと言葉にしてくれるようになります」

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