デジタル庁をモデルケースとして見たとき、期待されるさらなるインパクトは、霞が関を越えて民間の産業に与える影響である。IT人材が不足する日本で、日本最大のデータ集積地であり、プラットフォーマーとなるデジタル庁が優秀なエンジニア等に開発経験を提供して育てる意義は大きい。そのような直接的な人材供給源となることはもちろん、年間7000億円程度のIT予算を擁する政府のシステム調達方法の変化は、産業全体の変化に繋がる可能性も秘めている。
日本のIT人材は、7割がサービスや商品を提供する主体のユーザー企業ではなくいわゆるベンダー側に集まっているのが特徴だ。企業がIT投資する際、アメリカでは自社開発、受託開発、パッケージソフト活用に分散しているのに対し、日本では受託開発が8割を占める。柔軟な人員調整ができない日本型雇用慣行を前提に、プロジェクトベースで需給を調整する必要があったIT人材を、企業が内製化せず外部のベンダーに発注してきた歴史があるからだ。
従い、民間でも官公庁の「丸投げ」とあまり変わらない状況の企業は多い。日本でデジタル技術が新たなビジネスを創出する主役ではなく、業務の効率化や自動化といったパッシブな目的でしか使われない一因がここにある。
日本はコロナ危機を変化の契機にできるか
デジタル技術がビジネスやサービスそのものの付加価値を生み出す時代を迎え、今後、専門家を内包する企業は増えていくだろう。新型コロナ対策で政府が、「政策課題をどうデジタルツールを使って解決できるか」という視点に乏しかったという指摘がある。デジタル庁が戦略的目的のための専門人材を活用していくことは、パッシブにしかデジタル化を捉えていなかった民間企業でもモデルケースになりうるのである。
センティネルで採用された方法論スクラムの提唱者で2001年にアジャイル開発宣言を発表した17人のエンジニアの1人であるジェフ・サザーランドは説く。「時代に合わなくなった仕事の進め方や指揮統制のやり方、あるいは厳密な予測にしがみついていれば、待っているのは失敗しかない。その間に進んで変わろうとしたライバルは、あなたを置いていく」。
アメリカは同時多発テロ、韓国は経済危機によるIMFの統制に端を発して大きな変化が起きた。日本はコロナ危機を変化の契機にできるのだろうか。
(向山淳/アジア・パシフィック・イニシアティブ主任研究員)
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