肥満の経済学 古郡鞆子著 ~先進国の肥満の実態を労働社会経済学で解析
経済学者の著者は自らデータを集め、それを紹介するところから本書を始める。サンフランシスコでの肥満実態調査だが、著者の主観に基づく「どう見ても太りすぎ」の人数を高級、準高級、大衆、都市周辺の四つの小売店で数えたものだ。その結果に明らかな差がみられる。
次にアメリカ全土の肥満状況のデータが紹介される。BMI(Body Mass Index:体重kg÷身長mの2乗)が30を超える人の割合が地図で示される。1995年には20を超える州が一つもなかったのに対し、2007年にはルイジアナ州が超え、25から29の州は27州にものぼる。別の資料ではBMIが30を超える人口が全米男女の3割、25を超える人々が6割強とのデータが示される。著者はこうした肥満現象がアメリカのみならず欧州でも顕著だと指摘し、対して、日本のBMI30超の人口はわずか3%と誇る。肥満を美とする文化もあるという考察も踏まえながら、肥満度が低いと思われるアフリカ諸国においてもエジプトや南アフリカの女性の3割超が肥満と報告している。
肥満の経済的、文化的な比較考察にとどまらず、著者は先進国(特にアメリカ)の肥満の原因を高カロリーのファストフードや炭酸飲料だとしてやり玉に挙げる。仕事を掛け持ちして働く貧困層は外食に頼りがちで、それが肥満を促進しているようだと結論づける。圧巻は、「体重と仕事に関する訴訟例」だ。BMIが58の女性が以前勤めていた病院で復職をはかり、拒絶された事例では、訴えた原告が勝訴したという。その理由が、「(差別する側の)知覚の障害」というのがふるっている。肥満の人(特に女性)は欧州では自営比率が高いといった面白い指摘もある。肥満に関心がある読者は本書で溜飲を下げたり、憤ったりすることだろう。
ふるごおり・ともこ
中央大学経済学部教授。慶応義塾大学商学部卒業後、米ロチェスター大学ビジネススクールでMBA、州立ニューヨーク大学大学院でPh.D.を取得。アクロン大学経済学部助教授などを経る。都労働委公益委員、中労委公益委員などを歴任。
角川学芸出版 1680円 237ページ
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら