マインドフルネス番組が「成長分野」である理由 Netflix「瞑想ガイド」は最先端コンテンツだ

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そもそもマインドフルネスって何?の基本から優しく解説してくれています。座禅やヨガの瞑想をイメージしながら臨むと、構える必要は一切ないことに気づかされます。日常生活に取り入れていくことがマインドフルネスの特徴にあるようで、そう難しく考えずとも、心身共に何かと疲れを感じる現代人にぴったりの心のエクササイズといったところです。

そして、冠タイトルにあるヘッドスペースとは190カ国に約6000万人のユーザーを持つ瞑想アプリを開発したマインドフルネス業界を牽引する企業ブランド名です。シリーズ第1弾の『ヘッドスペースの瞑想ガイド』ではその共同創業者で、仏教の僧侶であるアンディ・プディコムが各20分、全8話のアニメエピソードを通じて、科学的見地などについてもやさしい言葉で語ります。日本語の吹き替えもありますので、目を閉じても体験可能です。

心を休ませる15~20分間のエクササイズはホッと一息つきながらコーヒーを飲む時間をイメージさせる(写真:Netflix)

第2弾の『ヘッドスペースの睡眠ガイド』は入眠を促すもので、ヘッドスペースの瞑想ディレクターのイヴ・ルイス・プリエトの解説による各15分、全7話のアニメエピソードが展開されています。さらに第3弾の『ヘッドスペースの安らぎガイド』はインタラクティブ型。「瞑想」と「リラックス」「睡眠」の3つの選択肢の中から、その日のその時々の気分や目的に合わせてプログラムを選び、好みのバージョンを進めていくことができます。

このインタラクティブ版は2回目以降アクセスすると、「アンディです。またお会いできましたね」と語りかけてもくれるので、ちょっとしたプライベートレッスン気分になれます。私も気に入って何度か再生していますが、睡眠プログラムにある「おやすみ前の話」を最後まで聞けたためしがありません。個人差があるものなので、誰でも睡眠導入になるかどうかは保証できませんが、「気づいたら寝落ちしてた」「寝つきが改善した」という声がTwitter上で実際に見られます。

夜8時に「ナルコス」を観た後の習慣に

インタラクティブ版『ヘッドスペースの安らぎガイド』では、夏の寝苦しい夜に合わせて「閉館後の水族館」の話を聞きながら、眠りに落ちていくこともできる(写真:Netflix)

ヘッドスペース社は「クオリティの高いアニメーションがすでにリリースしている瞑想アプリとの違いにある」と強調。Netflixのドキュメンタリーシリーズ『世界の"今"をダイジェスト』を製作するアメリカのデジタルメディアVox Media Studiosとタッグを組んだことで、エピソードごとに込められたメッセージを視覚的に伝えることに成功しています。世界中のアニメーターからも協力を得ていて、大人向けカートゥーンを得意とするニューヨーク拠点のAugenblick StudiosやイギリスBBCの番組などを手掛けるロンドンにあるCompost Creative、クリエイター集団を抱えるロンドンのStrange Beast、そしてカンヌ国際映画祭で受賞歴のあるストップモーションアニメスタジオのBlinkinkなどが参加している力の入れよう。

各エピソードで使われている音楽にもこだわり、オリジナル楽曲によってシリーズ全体の統一性を高めています。といった具合に製作背景はクオリティ重視であることが伝わってきます。それでも、何より軸足を置いたポイントは、世界で2億人以上が利用するNetflixユーザーに向けて、エンターテインメントコンテンツのひとつとして気軽に利用してもらうことだったことがヘッドスペース社のコンテンツ責任者であるモルガン・セルツァーのコメントからうかがえます。

「夜8時に『ナルコス』を観て、9時に『ヘッドスペース』にシームレスに切り替えることができると思っています。これまで瞑想は特定の服を着て、特定の場所に座って、特定の方法で食事をするという考えがありましたが、マインドフルネスは誰でもどこでもできる普遍的なものなのです」

体験すると、合点がいく言葉です。何かとストレスフルな状態が続くコロナ禍も味方に、瞑想という元からあったものを新しく見せ、習慣化させる事例にあります。成長分野であるマインドフルネスをエンターテインメントにうまく取り入れた成功例だと思います。

長谷川 朋子 コラムニスト

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はせがわ ともこ / Tomoko Hasegawa

メディア/テレビ業界ジャーナリスト。国内外のドラマ、バラエティ、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに、テレビビジネスの仕組みについて独自の視点で解説した執筆記事多数。最も得意とする分野は番組コンテンツの海外流通ビジネス。フランス・カンヌで開催される世界最大規模の映像コンテンツ見本市MIP現地取材を約10年にわたって重ね、日本人ジャーナリストとしてはこの分野におけるオーソリティとして活動。業界で権威ある「ATP賞テレビグランプリ」の「総務大臣賞」の審査員や、業界セミナー講師、札幌市による行政支援プロジェクトのファシリテーターなども務める。著書は「Netflix戦略と流儀」(中公新書ラクレ)。

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