入居1年の本社売却…HISが狙う来期黒字の現実味 厳しい環境でも衰えない「澤田会長」の成長意欲

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海外旅行について、本格的に渡航可能先が増加するのは2022年春と読む。アメリカ本土やハワイ・グアム方面が立ち上がる形だ。実際、国際航空運送協会は5月、世界の旅客数について2021年は2019年比52%、2022年は88%、2023年は105%に回復するとの予測を発表している。

国内旅行は一足早く8月以降の持ち直しを見込む。重点強化するのは沖縄や北海道、九州への旅行だ。飛行機とホテルをパッケージにしやすく、利益率も高い。

同時にシステム改革による効率化、合理化を急ぐ。需要が回復した際には人員、経費面ともコロナ前の7割でピーク時の売上高(2019年10月期に8085億円)を創出する目算だ。「自動化でケアできるシステムが稼働しつつある。生産性は上がっていく」(澤田会長)。

難しい成長と財務の舵取り

澤田会長の強い成長意欲は変わらない。旅館再生や人材派遣、薄型太陽光パネルの販売、飲食などの新事業を育成し、5年以内に旅行事業と同規模まで拡大する。コロナ等の有事があっても安定的に利益を出せるポートフォリオを形成する考えだ。

一方で、財務制限条項抵触の懸念は残る。HISはシンジケートローン345億円について「①期末の純資産を前期の75%以上に保つ」「②2期連続の経常赤字を避ける」との条項が課されている。どちらか1項目だけでも抵触となるが、前期から2期連続の赤字は不可避。この点は期限の先延ばしなど、条件緩和について銀行と交渉していく方針だ。

湾岸戦争やアメリカ同時多発テロ、SARSなど、旅行業界の危機があってもシェア拡大を達成してきたHIS。コロナ禍を反転攻勢の契機とするには、投資を抑えて財務を固めながら新事業を軸に成長を図る、難しい舵取りが求められる。

田邉 佳介 東洋経済 記者

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たなべ けいすけ / Keisuke Tanabe

2007年入社。流通業界や株式投資雑誌の編集部、モバイル、ネット、メディア、観光・ホテル、食品担当を経て、現在は物流や音楽業界を取材。

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