コロナ禍の政府説明に不信感ばかり募る根本原因 「リスクコミュニケーション」の専門家が分析

拡大
縮小

新型コロナウイルスで言えば、横浜港に入った豪華客船ダイヤモンド・プリンセス号で集団感染が確認され、国内への感染拡大が最初に懸念されたころが③のクライシス・コミュニケーションの局面でした。

その後、事態が進み、緊急事態宣言が何度も発出され、外出自粛や飲食店の休業要請などが続くようになると、①や②の要素も含むようになりました。その転換を政府は十分に認識できなかったのではないでしょうか。

――日本政府からの発信は、リスクコミュニケーションをどこまで意識できていたと思いますか。

総じて言えば、「国民との対話」がうまくできなかった。それに尽きるでしょう。「密をつくるな、大勢で集まるな」と言いつつ、満員電車の状況には言及しない。外出を控えよ、県境を跨いでの遠出は控えよと言ったのに、「Go To」で旅行や飲食を促し、そうかと思えば再び旅行に行くな、と言う。科学的なエビデンスも明確ではない。

リスクに関する説明の場は「信頼こそ重要」

これも指摘されていることですが、東京オリンピック・パラリンピックを実施するとなれば、暗黙のメッセージとして「行動制約は必要ではない」が伝わりますから、その両義的メッセージで効果を期待するのは無理があると思います。

そういった折々の国民の疑問に、政府はきちんと答えてこなかった。その積み重ねの結果が、コロナ対応と東京五輪開催を巡る混乱につながっているのではないでしょうか。

リスクに関する説明の場について、社会心理学者は繰り返しこう言ってきました。「信頼こそ重要」と。危機対応に責任を持つ側の情報発信に信頼性がなければ、本末転倒であり、リスクコミュニケーションは成り立ちません。その意味では、コロナ禍での政府、主に政治家からのコミュニケーションは当初から現在まで、残念ながらあまり成功しているとは言えないでしょう

取材:板垣聡旨=フロントラインプレス(FrontlinePress)所属

Frontline Press

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「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年5月に合同会社を設立して正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や研究者ら約40人が参加。スマートニュース社の子会社「スローニュース」による調査報道支援プログラムの第1号に選定(2019年)、東洋経済「オンラインアワード2020」の「ソーシャルインパクト賞」を受賞(2020年)。公式HP https://frontlinepress.jp

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