口蹄疫拡大の惨状、緩すぎた感染対策
政府と県の指揮系統があいまいだったことも、対応の遅れを招き、事態をより悪化させた。政府の対策本部と県の対策本部は、足並みがそろっているとは言いがたい。「政治家は自分の考えを言える立場にあるから、農水大臣と知事の意見が食い違っても仕方がないと思う。だが事務方は混乱している。現場で意見が対立することは確かに多い」と県庁職員は打ち明ける。
たとえば種牛問題。家畜改良事業団の1頭が感染したことで、残る49頭は全頭処分する義務がある。にもかかわらず、東国原英夫知事は国に延命を求めた。これに対し「確かに種牛は日本の財産だが、49頭を守ることで49万頭が感染するかもしれない」(JA宮崎経済連)と懸念の声が上がる。結局、政府は殺処分を決定したが、県との考え方の違いは明らかになった。
今後の補償問題も不透明だ。政府は、感染した家畜は評価額の3分の1、ワクチン接種した家畜は評価額を全額補償する方針などを明らかにしている。だが評価法や支払い時期などを知る農家は少ない。県庁幹部は「政府は全頭処分や農家への補償など簡単に口にするが、現場で実行するのは本当に大変」と困惑する。
感染エリアの3市4町の処理を終えると、27万頭の家畜が完全に消えることになる。その規模は、宮崎県の肉用牛と豚、乳用牛合計の2割程度に上る。今後、問題が収束しても、経営を再開する農家がどれだけ出てくるかは不透明だ。