口蹄疫拡大の惨状、緩すぎた感染対策
宮崎県で猛威を振るう口蹄疫(こうていえき)に終息の兆しは見えてこない。
感染が確認された新富町で養豚業を営む松本さん(49)。間もなく豚へのワクチン接種を控えるが、「事態収束のために仕方ない」とあきらめ顔だ。松本さんの豚舎は感染していない。それでも「感染の可能性を考えると迷惑はかけられない。昨日は黒豚2頭が赤ちゃん17頭を生んだばかりだが」と唇をかんだ。
35年間、肉用牛を肥育してきた岩本さん(62)の牛舎でもワクチン接種後、100頭が殺処分される。「今年3月に大阪から息子が帰ってきて家業を手伝うと言ってきたが、継がせるか悩んでいた」。その矢先だけに、「先のことは考えられない。牛は自分の子供みたいなもの。全頭処分してどうやり直すのか」と目に涙を浮かべた。
空気感染するほど伝染力が強い口蹄疫は、1頭でも感染確認されれば、その農家の家畜を全頭殺処分し、埋却もしくは焼却する必要がある。宮崎県によると、5月26日時点の感染疑いは15万2357頭。だが半数近くの殺処分が追いつかず、処分後の埋却地も足りていない状況にある。27日には感染していない牛豚へのワクチン接種をほぼ終えた。今後、殺処分と埋却を行って半径10キロメートル圏内を家畜のいない「空白地帯」にすることで感染を阻止する狙いだが、そのメドは立っていない。
対立する政府と県 農家に情報伝わらず
なぜここまで感染が広がってしまったのか。農林水産省・牛豚等疾病小委員会の寺門誠致委員長代理は「口蹄疫は時間との戦い。感染が確認された牛豚は直ちに処分する。遅くとも2~3日以内で処分が終了するのが望ましい」と指摘する。しかし感染の“震源地”となった川南町では、発生から殺処分まで時間がかかることが多かった。「養豚地帯に豚3万頭がいたが、獣医も不慣れで処分が追いつかず、感染豚を1週間放っておいたら10日後に全頭感染した」(JA尾鈴畜産部の松浦寿勝部長)。
ウイルスが増殖する速さは、豚が牛の1000倍とも言われる。「2000年に宮崎と北海道で発生したときも、牛での発生に限定されたため封じ込めに成功した。もし豚に感染していたら、もっと広がっていたはずだ」(牛豚疾病小委の寺門氏)。