日本の「児童虐待対応」世界から取り残されるワケ 「警察との情報共有」が現場を苦しめている

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他国でも福祉機関で一時保護はできます。緊急時には子どもの安全が第一です。しかしながら福祉機関のため時間制限(多くは72時間以内)があります。よってその後は必ず司法機関に移送され保護継続が判断されます。緊急時を除き親子の分離を福祉機関が決定してはいけません。親と子が分離されるというのはそれぐらい重要なことなのです。

2018年8月に明石市で虐待の疑いで児童相談所に一時保護され、その後1年以上両親と隔離された当時生後2カ月の男児について、今年3月に4回目の検討委員会がありました 。これは一時保護の是非ではなく、親子が面会できなかったことが問題なのです。この分野で世界の実情を調べた親から見れば、なぜ児相に子どもを奪われ顔も見れないのかとお怒りになるのももっともで、児相側も条約に違反したようなことを実践するのは不本意なのです。

「裁判所」が主体的に管轄すべき

親子の分離や通信面会の制限については、人権にかかわることだからこそ、裁判所の関与が必要であり、福祉機関で決めてはいけないのです。しかしながら現状では児童相談所がそれらを決めている状態です。上述の厚労省専門委員会のおかげで一時保護の司法関与が前進しつつあるのは喜ばしいのですが、一時保護だけでなく、措置や親権、虐待防止プログラムなどすべてについて「裁判所」が管轄で主体的に実施するべきです。

しかしながら児相の一時保護の司法関与への不安の調査結果が表すのは、司法が上から児童相談所に対して「この資料集めろ」「もっと親や子どもの意見を聞いてこい」というのがわが国の「司法関与」になり現場がさらに忙殺され、救える子どもが救えなくなることなのです。

司法が児相の行為を適切かどうか判断するのではなく、司法が独立して判断することが“世界基準の司法関与”なのです。その世界基準にすることを避けるために、警察との情報共有や連携など、エビデンスがないことで逃げてきたように見えます。

凄惨な虐待死が起きるとわが国は児童相談所に業務妨害が多発し、職員に過酷なストレスがかかります。他国(特にアメリカなどは年間1700人くらい虐待死が起こっている)では、虐待死が起こっても対応した福祉部門の職員がメディアや住民から攻撃されることはまずありません。なぜならその事件の系統がすべて公開され科学的な見地から分析されるのです。

例えば1人当たり20ケースが限度なのに30ケース持っていた。このような過酷な業務体制のままにした当局が悪いなど、すぐ事情が明らかになります。つまり各国では大きな事件が起こると、十分なシステムやリソースを構築しなかった議会(政治)や首長など、選挙で選ばれた政治の責任者が責められるのです。

「職員の質を高めよ」という専門家の意見は、話術で親を説得し、家庭にとどまる子どもに被害がないようにしろという非科学的な言及です。司法の役割分担がなくそのためリソース不足というマクロの問題を回避して、ミクロ(職員)の質や勤務年数等の問題に落とし込んでしまっては問題解決につながりません。個人の経験談や思いや感情による政策では子どもは救えません。データに基づく冷静な議論による科学的な政策制度立案が必要と思います。

和田 一郎 獨協大学国際教養学部教授

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わだ いちろう / Ichiro Wada

筑波大学大学院人間総合科学研究科(社会精神保健学)修了。博士(ヒューマン・ケア科学)。専門はデータサイエンス。社会福祉士、精神保健福祉士。人口減少社会における公共サービスの在り方、行政DXの活用や震災・疫病などの危機時における子ども等の弱者の支援におけるデータサイエンスの活用 などを研究している。

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