東大教授が教える「頭のいい人」の"多段思考力" 物事を単純に捉えて「わかった気」の危うさ
それは、「仕事の強弱」と言い換えてもいいでしょう。まだ仕事を知らない新人は、1段1段じっくり考えて丁寧にやっていくから時間がかかってしまうけれど、経験豊富なベテランは省いていいところが分かるから仕事が早いわけです。
その担当者は「もちろん、じっくり考え続けることも必要だけれども、ある程度考え続ける訓練をして経験を積んだら、省き方を覚えるのも仕事です。そういうことを教えるのがOJTなんです」とも言っていて、たしかに「仕事の強弱」は大事だと再確認しました。
そのような「無形の暗黙知」は、どのような仕事にも必ずあります。言わば、多段思考の階段を上っていくノウハウのようなもの。仕事ができる人は、その「暗黙知」をたくさん持っていて、階段を上るべきところと上らなくてもいいところを素早く見極める能力に長けているのです。
思考が単純化する「タブロイド思考」
考えることが面倒くさい人は、問題が起きても適当に判断して、早く落としどころを見つけようとします。こういうタイプは、「タブロイド思考」と言い、複雑なことを一切考えない頭になっている可能性があります。タブロイド紙というのは、普通の新聞よりも少し小さめの、駅の売店などで売っている新聞のことです。大きな文字のセンセーショナルな見出しが特徴で、世間で話題になっていることを1〜2段くらいで分かりやすくまとめています。
このように、情報発信者が背景などを省略して短くまとめた文を、正しい情報としてそのままインプットしてしまうのが、「タブロイド思考」です。思考体力の「2.多段思考」や「7.微分思考」とまるで正反対の「単段思考」と言ってもいいでしょう。
たとえば、リーマン・ショックの引き金となった「サブプライムローン」が話題になったとき、一般の新聞では、経済学者のインタビュー記事や論説を載せたりして何段もスペースを使い、サブプライムローンが起きた原因を分析しました。
一方、タブロイド紙の場合は、「Aという金融機関の会社役員が何十億もの報酬をもらっていた」といった見出しになるような言葉だけで短くまとめてしまいます。難しく複雑な背景はざっくり省略したり、簡略化して、1つか2つの事実を伝えるだけで終わってしまうのです。
すると、読み手は予備知識もないままに「そうなんだ」と一部の表面的な記事を納得して受け入れ、わかった気になってしまいます。しかし、世界に衝撃を与えた歴史に残る金融危機問題が、そんなに単純であるはずがありません。
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