民放キー局が「TVer」に任せた2つの大役と不安 ネット同時配信も秒読み、ローカル局で課題も

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龍宝社長も「TVerは"民放公式ポータル"であり、キー局や準キー局のためだけの存在ではない。(地方局に関する点は)最も課題と感じている」と語る。とはいえ、「ローカル番組が再生されていないことも事実。いいアイデアが出てきていないのが実情」と語り、解決策を模索しているもようだ。

りゅうほう・まさみね/1964年生まれ。1987年東京放送(現 株式会社TBSテレビ)入社。プレゼントキャスト取締役を経て、2020年7月から現職

成長しているとはいえ、TVerの広告市場規模が小さいことも課題だ。前出の電通の統計では、TVerなど広告型動画配信を含むテレビ局のネット広告費は2020年でわずか173億円だった。これはネット広告費全体の0.7%にすぎず、約1.6兆円の地上波広告費と比較するとほんのわずかな規模感だ。競合となるユーチューブなど動画広告市場が昨年で約3800億円だったことを考えても、存在感は薄い。

TVerは「広告主の認知を獲得できていない」

TVerでは番組の再生前後や途中に30秒ほどの広告枠があるが、それらがすべて埋まったことはなく、まだ「3割から4割程度」(龍宝社長)という状況だという。テレビ局の番宣映像がCM枠に流れるケースも少なくない。ユーザーの偏りが要因の一つとみられる。TVerでの番組ラインナップを見るとドラマが多く、女性の比率が高いという。「今後はスポーツ番組などを増やして男性ユーザーを取り込みたい」と龍宝社長は話す。

また、「TVerのサービス自体が広告主の認知を獲得できていない」(同)と語り、広告出稿先としての存在感が薄いと感じているようだ。

「ユーチューブと異なり、(広告が配信されるTVerの)コンテンツはテレビ局が世の中に堂々と出す安心・安全なものだけだ。それを理解してもらうことに力を入れたい」(同)

そういった魅力を訴求し、広告主の認知を獲得するべく、昨年7月のキー局の追加出資以降、TVerでは営業体制も強化している。以前はテレビ局各社がそれぞれTVerの広告枠を販売していたが、TVer自身も営業部隊を抱える戦略に転換。広告販売を積極化させている。

「テレビを場所や時間から開放する」とうたうTVer。テレビ局のコンテンツという武器を背景に、その潜在能力は誰もが認めるが、広告では後れを取るなど生かしきれていない現状が続いていた。今後、TVerの成長を加速させるためには、各テレビ局が自社の事情を超えて一致団結することが必須だ。

ライバルでもあるテレビ局が互いの利害を超越することができるのか。また、TVer自身が多くいる関係者を取りまとめることができるのか。課題は山積している。

井上 昌也 東洋経済 記者

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いのうえ まさや / Masaya Inoue

慶應義塾大学法学部政治学科卒業、同大メディア・コミュニケーション研究所修了。2019年東洋経済新報社に入社。現在はテレビ業界や動画配信、エンタメなどを担当。趣味は演劇鑑賞、スポーツ観戦。

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