バイデン政権「北朝鮮政策」が何とも不明瞭な真因 関係各国の思惑が複雑に影響し合っている

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韓国政府は、北朝鮮への対応についても、重要な対話と理解が得られたと強く主張している。もっともそれは、アメリカ政府が北朝鮮に対して「非核化を求め、真の譲歩が得られるまで圧力をかけ続ける」というおなじみの姿勢を維持しながらも、北朝鮮に対話する用意があると最低でも伝えられるよう奮闘することに大きくかかっている。米韓首脳会談の数日前には、韓国政府からの要請に応えて、キム大使を新たな北朝鮮担当特別代表に任命することが決定された。

在インドネシアアメリカ大使としての"本業"を継続することも注目に値することながら、キム特使はタフで経験豊富な韓国専門家である。過去に駐韓大使を務め、オバマ政権の末期には北朝鮮政策を担当し、シンガポールでの米朝首脳会談に向けて北朝鮮との事務レベル会談を主導した経験を持つ。

だが、同氏は北朝鮮政府との交渉の見通しについてほとんど幻想を抱いておらず、その認識は、ブルッキングス研究所のシンクタンクから移籍してきた元中央情報局(CIA)のアナリストであり、キム大使の補佐役に当たるジョン・パク氏も共有している。

韓国は対話への期待を持ち続けている

文政権は、対北制裁を緩和する措置の承認をアメリカ政府に求めており、それにより北朝鮮が交渉のテーブルにつくことを期待している。韓国政府では李仁勇統一相がこの任務を担当し、「制裁の柔軟な適用」を訴えているが、同氏の意見は、アメリカの立場を反映する傾向のある韓国外務省とは一致していない。

こうした中、キム特使とパク氏の韓国訪問は、北朝鮮政策をめぐる文政権の権力闘争の一端を垣間見せた。統一省はアメリカとの直接会談や、韓国政府内の進歩派や北朝鮮の政権の失望をよそに厳しい制裁を実施してきた、米韓作業部会の解散を要求し、これを実現している。情報筋によると、韓国側には北との間に開かれたチャンネルが1つあり、北朝鮮政府から会談再開の心強いメッセージを受け取っているという。

ロシア出身の北朝鮮専門家であるランコフ氏は、「文大統領は北朝鮮との会談を望んでいるが、それはアメリカを困らせず、制裁レジームの公然たる違反とならない限りにおいてである」と見る。

今のところ、韓国政府はアメリカ政府の対応に満足しているようだ。「アメリカ政府が北朝鮮との対話や関与について前向きな発言をしている限り、また対話への関心を強調するような行動を続けている限り、文政権の残りの在任期間の間、対話再開への希望を持ち続けることができる」とリビア氏は語る。

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