週刊東洋経済 最新号を読む(5/23号)
東洋経済オンラインとは
ライフ

仕事人間の中年ほど傷病を機に「うつ」に陥る理由 失ったアイデンティティを取り戻すのは難しい

7分で読める
  • 熊代 亨 精神科医・ブロガー
2/3 PAGES
3/3 PAGES

またもうひとつ、精神医療の現場で馴染み深いのは、生まれながらに健康でバイタリティに満ちた社会生活を送っていた人が、初めての病気で同じ生活を続けるのが難しくなってしまい、自分自身のアイデンティティも維持できなくなってしまった果てに、精神疾患へと発展してしまうケースです。

健康でバイタリティに満ちた社会生活を続けていた人は、しばしばそのバイタリティにふさわしい社会活動を実践し、人間関係もしっかりつくっています。アイデンティティの構成要素は多種多彩なことが多く、他人がうらやむような人生を過ごしている人も珍しくありません。また、これまで活発で健康だったことから、自分自身の構成要素として「健康な自分」というイメージをしばしば持っています。

ところが、癌や脳梗塞などの大きな病気を経験し、そのバイタリティに陰りが生じると、このような人はアイデンティティの危機に直面してしまいます。

『何者かになりたい』(イースト・プレス)書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします。

アイデンティティの構成要素が多種多彩であることは、基本的には望ましいことです。ゲームとアニメだけがアイデンティティの構成要素である人と、それらに加えて仕事や家庭や地元の草野球チームがアイデンティティの構成要素である人を比べるなら、後者の方がゲームやアニメに頼りきりになりにくく、それらが楽しめなくなったとしてもアイデンティティの危機に陥るリスクはあまりありません。

「自分はもう何者でもないのではないか」

しかし、バイタリティ頼みにたくさん活動し、たくさん人間関係を築いていた人がそのバイタリティを失ってしまうと、まさにその多種多彩なアイデンティティを支え切れなくなってしまいます。小さい頃から揺るぎなかった「健康な自分」というイメージまで失い、そのうえ精神疾患まで患ってしまうと、再出発は簡単ではありません。

中年期はもう、自分自身の構成要素を探し求める時期というより、すでに何者かになった・なってしまったあとの時期です。それだけに、せっかく手に入れ、十分に馴染んだアイデンティティの構成要素を失ってしまったときの再出発はなかなか大変です。

そうして、思春期とはまったく違った形で「自分はいったい何者なのか」という問いがよみがえったり、「自分はもう何者でもないのではないか」という疑いが生まれることがあるのです。

こちらの記事もおすすめ

あなたにおすすめ

ライフ

人気記事 HOT

※過去1週間以内の記事が対象