菅首相、ワクチンと五輪頼みの「9月解散戦略」 衆院選勝敗ラインは安定多数、過半数は退陣も

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下村博文自民党政調会長は16日の民放BS番組で、「コロナの収束状況によっては、10月21日の(衆院議員)任期満了直前に解散し、11月に選挙をやることもありうる」と語った。憲法や公選法に従うと、衆院議員の任期ぎりぎりまで国会を開会して解散すれば、「解散から40日以内に選挙」の規定で11月下旬の投開票も可能だからだ。

すでに次期衆院選の立候補予定者数は900人に近づいている。小選挙区では自民、公明の与党候補と、立憲民主や共産などの共闘による野党統一候補の戦いが軸となる。

菅首相の勝敗ラインは何議席か

そうした中、政界が注目するのは菅首相にとっての「勝敗ライン」だ。

衆院の定数は465。各党は289の小選挙区と11ブロックの比例代表の計176の議席獲得にしのぎを削る。政権継続に直結する過半数は233。すべての委員会で運営が有利となる安定多数は244で、国会運営を完全に支配できる絶対安定多数は261となる。

2012年12月の安倍晋三首相の再登板以来、与党幹部は政権交代を阻止できる「与党で過半数」を国政選挙の勝敗ラインとしてきた。しかし、絶対安定多数を大幅に超える議席を維持してきた自民党にとって、「過半数が取れなければ、首相(総裁)は退陣必至」(自民長老)というのが常識だ。

政権に批判的な立場の石破氏も「自民の勝敗ラインは単独過半数」と明言している。ただ、単独過半数をかろうじて確保する場合、自民は50議席近い議選減となる。自民党のベテラン議員は「過去に衆院選で50議席も減らして続投した首相はいない」と指摘する。このため、自民党内では「菅首相の進退が問われないのは安定多数以上の場合だけ」(閣僚経験者)との見方が多い。

菅首相は東京などの緊急事態宣言解除を決めた後の17日夜の記者会見で、衆院選の時期などを問われ、「まずはコロナ感染防止に全力を挙げる」としたうえで、「この秋のどこかで(解散を)する必要がある。さまざまな状況を考えながら、自分でしっかり判断したい」と述べるにとどめた。五輪開催については「国民の命と健康を守るのは私の仕事」と感染拡大での政治責任を事実上認めた。

菅首相にとって、就任時から狙っていた総裁再選による4年間の長期安定政権を実現するためには「五輪、コロナ、ワクチンから政治とカネの問題まで多くのハードルをすべて乗り越える必要がある」(首相経験者)だけに、今後も「薄氷を踏むような政権運営」(同)を強いられそうだ。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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