天才オードリー・タン母語る「子を自立させる術」 高く評価される台湾IT相を育てた教育の真髄

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あなたは子どもを叩かない母親なので、子どもを叩く親以上に不安を覚えるのだと思います。なぜなら目標を達成させるために子どもを叩く親は、少なくとも子どもが怖がってすぐにいうことを聞く姿を見ているからです。

でも暴力をふるえば、将来必ず子どもの人格形成や親子関係が犠牲になるとわかっているから、あなたは子どもを叩きません。かといって自分の望みどおりに子どもを育てる方法を知っているわけではないから、心配で不安になるのですよね。

近代になって、他者主導型学習の研究者は、面白いことに気づきました。子どもは、心から喜んで学ばないと、知識が身につかないばかりか、心の中に葛藤が生まれてしまうというのです。そこで学習者が進んで学ぶよう、さまざまなメソッドが考えられました。

例えば、周囲の環境を整える、集団心理に働きかけるといった方法です。こうすれば、確かに子どもは喜んで学ぶかもしれません。「優秀な」働き手を生み出すこともできるでしょう。こうしたメソッドが書かれた本はいくらでも見つかります。

しかし、これは私が良いと思う教育方法ではありません。なぜなら他者主導型の教育を受けた子どもには、「自分が本当に学びたいことを発見し、自分の能力で何かを達成した経験と自信」がないからです。

自分で選択してきたという自信と勇気を持てる

自主学習では、大人が子どもをサポートし、子どもと意見を交わすことで、子どもは小さいころからいつも自分で選択し、挑戦し、対応し、変化してきたという自信と勇気を持つことができます。これらは、やがてこの世を生きるための自分だけの知恵になります。結果的に社会に振り回されることなく、自分らしくいることができます。

『天才IT相オードリー・タンの母に聴く、子どもを伸ばす接し方』(KADOKAWA)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

どちらの学習方法でも、協調性や社交性、愛情、魅力などを身につけ、社会に認められるようにはなると思います。しかし、社会は知らず知らずのうちに人々を道具や物のように扱って、支配しようとします。それに対抗できる力は、自主学習でしか育ちません。だから私は他者主導型ではなく、自主学習を主張するのです。

教育の専門家は子どもを持つ親に対して、よく「スタート時点で負けが確定してしまいますよ」と脅したり、「道を踏み外さないよう、お子さんのそばにいてあげて」と忠告したり、「成功した親になりましょう」と言ったりします。この言葉に従って「成功」した親たちは、子どもにも同じように成功してほしいと望みます。

しかし自主学習では、自分の子どもがスタート地点やゴール地点で負けたらどうしようと思うことも、子どもに世間のいう成功を収めてほしいと願うこともありません。親が子どもに望むのは、つねにはっきりした考えを持ち、自分の人生の主人公でいることだけなのです。

李 雅卿 種子学苑創設者

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リー・ヤーチン / Li Ya-Qing

1954年中華民国(台湾)生まれ。自らの子育てやジャーナリスト、社会運動家としての経験をもとに、1994年種子学苑を創立。台湾の教育改革に取り組んだ。主宰した台北市の自主学習実験計画(中高一貫教育)は、ユネスコの研究者に「アジア最高のオルタナティブ教育」の一つと評された。夫はジャーナリストの唐光華。長子は台湾デジタル相のオードリー・タン、次子は自主学習を広める活動に従事している。

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