「キングダムは設計が命」作者が明かす制作秘話 根底にはプログラミング的な考え方がある

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大学院でプログラミングを学び、社会人経験を積んだことで、原氏の中でプログラミング的な思考は、完全に定着した。

大学卒業後、漫画一本にしぼり、プロデビューをめざす道もあったはずだ。すでに漫画賞の受賞という切符も手に入れていた。けれども原氏は、そのタイミングでデビューしたとしても『キングダム』は描けていなかったと話す。

「30歳で連載デビューしたので、回り道をしたほうかもしれません。高校や大学を卒業してすぐに漫画家になる道もあったけれど、僕の場合、それだと『キングダム』は100%描けていない。僕は大学院で学んだ知識や技術を生かして会社員になり、悪戦苦闘した経験があるから『キングダム』が描けたのだと思っています」

『キングダム』が2つの夢をかなえた

『キングダム』は2019年に実写映画化された。

東京・上野の森美術館で「キングダム展-信-」開催中(7/25まで)。(c)原泰久/集英社

かつて映画をつくることを志した原氏は、映画の原作者、さらに脚本家の1人として関わることになり、夢をかなえた。

そして2021年、もう1つの夢をかなえることになる。6月12日から、「上野の森美術館」で開催される『キングダム展-信-』だ(7月25日まで。8月3日~9月26日は福岡市美術館で開催、以降全国巡回予定)。

主人公・信を中心に構成される原画展で、生原画はもちろん、本展のために描きおろしたイラストなども展示される。原画展を開催することは、大学生のころからの夢だ。

「とくに衝撃を受けたのが『井上雄彦 最後のマンガ展』(2008年に上野の森美術館で開催)です。フランスのルーブル美術館で絵画を見たときは感動して、ヨーロッパの美術の歴史にはかなわないと思いましたけど、井上先生の漫画展を見たとき、さらにその上をいっているように感じたんです。展示されている絵の背景にストーリーがあると、心の動かされ方が全然違うんだなと」

今回の原画展は連載を描くかたわら、自ら全面監修し、準備を進めてきた。

「足りない部分は描きおろして、展示空間の中で40巻までのストーリーを追える流れをつくっています。会場では、漫画とは別の楽しさを体感できると思うので、ぜひ足を運んでほしいです」

(文・中寺暁子)

原泰久(はら・やすひさ)/1975年、佐賀県出身。1998年、九州芸術工科大学(現・九州大学芸術工学部)画像設計学科卒業。2000年、九州芸術工科大学修士課程修了。システムエンジニアの会社に約3年勤務したのち、2006年『キングダム』(「週刊ヤングジャンプ」)連載開始。2013年「第17回手塚治虫文化賞」マンガ大賞受賞。
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