「キングダムは設計が命」作者が明かす制作秘話 根底にはプログラミング的な考え方がある
「大学院に行ったアドバンテージは大きく、C言語(プログラミング言語)がわかるので、文字列検索システムの核となる検索エンジンをつくっているチームに抜擢され、入社後早いうちから責任ある仕事を任されました。
やりがいはありましたが、終電ギリギリまで働いて、休日出勤も多い状態。漫画を描く時間はありませんでした。このままでは漫画家になれない、一度腰を据えて漫画を描きたい、そんな思いから会社を辞めました」
入社して3年目、27歳のときだった。その後、東京の12誌の編集部に漫画の持ち込みをするなど、漫画に専念して3年、30歳のときに『キングダム』の連載がスタートする。
『キングダム』は設計が命
『キングダム』は中国の歴史書である『史記』がストーリーのベースにあり、登場人物の多くは実在した人物だ。
「『史記』は構成が複雑で、国ごとの歴史が記された部分と人物のエピソードが記された部分が別になっているなど、時系列でまとめられていないんですね。そこでまず取り組んだのが、Excelを使っての年表づくり。『キングダム』の設計図のようなものです。
表にしてみると、『史記』を読んだだけではわからなかった気づきがあるんです。かなり時間をかけてつくったんですが、担当編集者に見せたら『それよりも1話目を頑張って描いてください』と一蹴されてしまいました(笑)」
『キングダム』の舞台は、紀元前の中国、戦乱の時代。物語の中心にいるのは、下僕の出身ながら天下の大将軍を夢見る「信」と中華統一を目指す秦国王「えい政(後の始皇帝)」の2人だ。しかし、「戦国七雄」と呼ばれる7国の武将をはじめとして、300以上の人物が登場し、それぞれの背景やキャラクターがしっかりと描かれる。
「マニアックな話になるのであまり話したことはないのですが、『キングダム』は設計が命で、その根底にあるのはプログラミング的な考え方なんです。ゴールとなる“目的”があって、そこに至るにはいくつもの“プロセス”がある。もちろん設計どおりにいかないことはあります。
5巻までの『王都奪還編』は、設計では2巻で終わる予定でしたから。準備した設計に描いているときのライブ感で肉づけしながら仕上げていくようなイメージです」