Aさんはこの病院に応援に入るときには、「もともとその病院で働いていた職員より高い給料は払えない」と言われたという。後から応援に入った人のほうが高いと、もといた職員が辞めてしまうから、という理由だった。
「この病院ではコロナ治療の最前線で働けて、いろいろ学ばせてもらったので、私自身は報酬が低いことに不満はなかったのですが、コロナ病棟の仕事は誰でもできるわけでもありません。それなりのスキルや経験も必要なのに、軽症者用ホテルよりも報酬が低いのです。感染のリスクもある中では“危険手当”のような仕組みも必要だと思うのですが……」(Aさん)
Aさんはその後、派遣会社を通じて関西の民間企業が運営を委託された軽症者療養ホテルや、重症者専門病院でも働いた。
軽症者用ホテルではリーダー格だったこともあり、月給は45万円ほどになった。他の県の軽症者療養ホテルで働く看護師を募集する人材会社のサイトを見ると、時給2000円台が多いが、中には九州で時給5000円台、日給4万円台というものもある。
軽症者用ホテルの仕事はどこも、1日数回の電話による体調確認などが主な仕事だ。仕事内容の割に報酬もいいため、派遣会社を通じて募集に応じた看護師が全国から集まっていて、「いろいろな立場や考えの人がいて、人間関係には苦労した」(Aさん)というが、逆に人間関係のしがらみも少ないので、辞めたければすぐ辞められるともいう。
もともといる看護師のほうが待遇が低くなる
一方で、「病院でもともと働いていた看護師は辞めたくても辞められず、私が応援で入った病院では、辞める順番待ちをしていました」とAさんは明かす。
今春、ちょうど第3波が落ち着きを見せる頃には、あるコロナ専門病院で働いていた。求人情報を見ると時給は4200円~5000円台。仮に時給5000円として、1日8時間、月20日働くと月80万円もの収入になる。
この自治体の公立病院の看護師の給与を見ると、4大卒の基本給が月約22万円。もちろんボーナスや各手当はあるとしても、そのボーナスなどがコロナ患者を受け入れたことによって経営が悪化し、カットされている医療機関は少なくない。
昨年、病院が示した夏のボーナスゼロに看護師400人が一斉に退職の意向を示したという東京女子医大のケースは記憶に新しい。国からはコロナの重症・中等症患者を診る病床に対して1日4万1000円の補助のほか、医療従事者に対する特別給付金も支給されているが、その額は決して十分とは言えず、給付の遅れが経営悪化に拍車をかけている(新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況の調査)。
同調査によると、調査に応じた約4400病院のうち、2020年冬季ボーナスを満額支給できた病院は約6割にとどまっている。
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