失注が一転「中国製」欧州向け電車、突如登場の謎 実は「秘密裏」に進んでいた中・欧の共同開発

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中国中車株州機車が開発したオーストリア・ウェストバーン向けの2階建て電車(写真:CRRC)

そのニュースは、まさに突然入ってきた。6月1日、中国メディアは世界最大の鉄道メーカー、中国中車(CRRC)の子会社である中車株州電力機車有限公司(CRRC ZELC)が、オーストリアの民間鉄道会社ウェストバーン向けの新型2階建て電車を完成させ、輸出すると報じたのだ。

ウェストバーンは現行車両の更新のため、新型車両の導入を計画していたが、CRRCと争っていたスイスのシュタドラーが、同社の2階建て電車「KISS 3」6両編成15本を、製造とメンテナンスを含む総額3億ユーロで契約を獲得、CRRCは失注していたはずだった(2020年1月25日付記事「中韓鉄道メーカー、『欧州本格展開』への高い壁」)。

だが、中国メディアのニュース映像には、すでに完成したと思われる車両が完成記念式典の会場で関係者の晴れやかな笑顔とともに映し出され、この車両が出荷目前であることをうかがわせた。記念式典はウェストバーンのゼネラルマネージャー、エーリッヒ・フォースター氏を筆頭に、駐オーストリア特命全権大使やオーストリア商工会議所の会長らもオンラインで出席するなど、大々的なものだった。

オーストリア側に事情を聞くと…

これには、さすがのヨーロッパ各国の鉄道系メディアも寝耳に水といった感じで驚きを隠せず、一時騒然となった。ヨーロッパ側では誰もが何も把握していなかったことから、中国側の勇み足じゃないのか、といった噂話まで飛び出した。

いったい、何が起きたのか。ウェストバーンの広報へ確認したところ、以下の回答を得た。

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まずこの車両について、ウェストバーンとは2019年12月に契約を締結したとのことだ。つまり、1年半前に失注したと言われたその直後から、秘密裏にこの車両の設計・製造がスタートしていたわけで、一度は決別したかに見えた両社は、今も蜜月の関係にあることがうかがえる。

とはいえ、現時点ですでに車両が完成し出荷状態にあるというのは驚きで、CRRCはこのような顧客の意向に沿ったオーダーメイド車両であっても、18カ月以内で設計・製造することが可能だと述べている。

また、すでに契約を結んでいるシュタドラー製の6両編成15本はそのまま購入し、CRRC製車両はそれとは別に6両編成4本を追加投入という形で導入するという。

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