失注が一転「中国製」欧州向け電車、突如登場の謎 実は「秘密裏」に進んでいた中・欧の共同開発

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だが、この「KISS」と「KISS 2」はメンテナンス費用が少々高かったことに加え、当時は需給調整で列車本数の削減を検討していたことから、新型車へ置き換える形で売却を決断し、置き換えられた車両は順次ドイツ鉄道へ売却することも後に発表された。そこで、置き換え用の新車としてシュタドラーの進化型「KISS 3」とCRRCの車両が受注を争うことになった。

当時、ウェストバーンはCRRC製車両の導入にかなり傾いていたとされ、契約は時間の問題だとも噂されていたが、その結果は意外にもシュタドラーに軍配が上がった。2019年秋、ウェストバーンはシュタドラーと新型の「KISS 3」を導入する契約を結んだと発表したのだ。

確かに、すでに同社のKISSシリーズを使用しており、それに特段の不満がないのであれば、無理に別のメーカーへ鞍替えをする必要性は考えられない。乗務員の取り扱いを考えても、むしろ同じメーカー・車種で統一するほうが望ましい。

とはいえ、CRRCが提示した契約がかなりの好条件であったと仮定すれば、国の後ろ盾があるわけではない民間企業にとっては非常に魅力的なオファーとなるに違いない。いや、民間鉄道会社のみならず、交通インフラへ十分な投資ができない中・東欧地域の国々にとっても、魅力的なオファーがあれば飛びつきたいと考えるのが自然だ。

欧州では実績のない中国製

一方で、まったくの新規参入メーカーとの取引には、多少のリスクが伴うということも忘れてはならない。CRRCが鉄道メーカーにおける世界シェア1位ということは揺るぎない事実だが、売り上げの約90%は中国国内へのもので、ヨーロッパでの実績は皆無に等しい。

CRRCがチェコのレオ・エクスプレス向けに製造した「シリウス」(左)と、ハンガリー鉄道貨物部門向けの「バイソン」(筆者撮影)

ヨーロッパ地域におけるCRRC製車両としては、マケドニアとセルビアに貨物用の機関車が数両ずつと、ハンガリー鉄道貨物部門向けの新型機関車「バイソン」、それにチェコ民間企業レオ・エクスプレス向けの5車体連接電車「シリウス」などがある。

ただ、前2者のうちセルビアは発電所への石炭輸送という非常に限られた使い方をされており、マケドニアは国内の限定された貨物運用に供されているだけだ。後2者については、チェコ国内にあるヴェリム試験センターから出てくる気配もない。

「シリウス」に関しては、年初めの段階で2021年前半には営業運転を開始すると高らかに宣言していたが、筆者が以前の記事で指摘した通り、テストは順調に進んでおらず、現時点では少なくとも2022年まで営業運転を開始できる見込みはない、と言われている。

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