コロナ禍で露呈「トヨタ生産方式」の決定的な弱点 利益を出すために無駄を省きすぎた末路

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ペンシルベニア州コンショホッケンでは、アンドリュー・ロマノが文字どおり船の到着を待ちわびていた。

ロマノは全世界から化学製品を調達し、塗料やインクなどを製造する工場に販売するバンホーン・メッツ・アンド・カンパニーの販売担当バイスプレジデントだが、同社は建材メーカーに販売する特殊用途の樹脂を十分に確保できていなかった。

その樹脂を供給しているアメリカのサプライヤーも、中国の石油化学工場から、ある素材が調達できずにいた。

ロマノの得意先である塗料メーカーは、完成品の出荷に必要な金属缶が十分に手に入らないことから、化学薬品の発注を手控えていた。「すべてが連鎖している。もうしっちゃかめっちゃかだ」とロマノは言う。

もっとも、JITとグローバルなサプライチェーン(供給網)に過度に依存するリスクはコロナ禍となる前からすでに明らかになっていた。専門家らはその帰結について何十年と警鐘を鳴らし続けてきた。

例えば、1999年に台湾を揺るがした地震では、半導体工場がストップした。2011年に日本に甚大な被害を及ぼした地震と津波でも、工場の停止や物流の停滞から自動車部品や半導体が足りなくなった。さらに同年にタイで発生した洪水でも、コンピューターに使うハードディスクドライブ(HDD)の生産が急落した。

こうした災害が起こるたびに、「企業は在庫を積み増し、サプライヤーを多様化する必要がある」との議論がかまびすしくなった。

それでも企業はリスク承知で突き進む

しかし、多国籍企業はこうした事態となっても、それまでの手法を改めることなく突き進んだ。

これまでJITを売り込んできたコンサルタントは現在、「サプライチェーン・レジリエンス」の伝道者となっている。サプライチェーン・レジリエンスとは、強靱で復元力の強い調達網を意味する近頃はやりのバズワードだ。

結局のところ、JITはこれまで企業に利益をもたらし続けてきた。こうした単純な理由から、企業のJIT依存は今後も続いていくに違いない。

「まさに『企業が経営の重要な判断基準として低コストの追求をやめるのかどうか』という点が問題になっているわけだが、企業行動が変わるとも思えない」とHBSのシーは話す。「消費者は危機的な状況にでもならない限り、レジリエンスにお金を払ったりはしないものだ」。 

=敬称略=

(執筆:Peter S. Goodman記者、Niraj Chokshi記者)

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