コロナ禍で露呈「トヨタ生産方式」の決定的な弱点 利益を出すために無駄を省きすぎた末路
JITはビジネス界においては、まさに革命といっても過言ではない。在庫をスリムに保つことで、大手小売店は売り場スペースを一段と有効活用し、さらに幅広い種類の商品を陳列できるようになった。無駄のないリーンな生産方式のおかげで、企業はコストの大幅削減と同時に新製品への迅速な切り替えが可能となった。
こうした強みは企業に付加価値をもたらし、イノベーションを促し、商売を加速させた。それゆえコロナ危機が沈静化した後も、JITが長期にわたって力を持ち続けるのは間違いない。JITによって浮かせたコストで企業は配当や自社株買いを行い、株主に報いてもきた。
利益拡大に前のめりすぎた?
それでも、今回の物不足をきっかけに、次のような疑問が浮かび上がっている。「一部企業は在庫削減による利益拡大に前のめりとなりすぎたのではないか、そのせいで想定できた事態への備えを怠る結果となったのではないか」という疑問だ。
マサチューセッツ大学の経済学者ウィリアム・ラゾニックは「必要な投資が行われなかった」と話す。
世界経済を襲う物不足は、もちろん在庫の引き締めだけに起因するわけではない。新型コロナウイルスの感染拡大で港湾労働者やトラック運転手が以前のように働けなくなり、アジアの工場で生産され、北アメリカやヨーロッパに海上輸送される製品の荷下ろしや流通が滞った。
製材所の操業もパンデミックで停滞し、木材不足からアメリカの住宅建設が進まなくなった。メキシコ湾の石油化学工場が大寒波で停止したことも、主要製品の供給不足につながった。
こうした状況がとりわけ痛手となった企業には、コロナ危機となる以前から、そぎ落とした在庫で切り盛りしていたところが少なくない。
さらに、多くの企業はJITの徹底と同時に、中国、インドといった低賃金国のサプライヤー(調達先)への依存度を深め、国際輸送の混乱が直撃する構図となっていた。今年3月にはスエズ運河で大型コンテナ船が座礁し、ヨーロッパとアジアを結ぶ主要な水路が封鎖される事態となったが、このように歯車がちょっと狂っただけで被害が増幅するメカニズムだ。
「人々は(無駄を徹底して削る)この種のリーン思考を取り入れ、それをサプライチェーンに適用したが、これは低コストで信頼性の高い輸送が利用できることが大前提になっていた」とハーバード・ビジネス・スクール(HBS)で国際貿易を専門とするウィリー・C・シーは語る。「そして、このシステムはいくつかのショックに見舞われている」。