「テスラ」が赤字から脱出できた超意外なカラクリ 2021年1月末の時価総額はなんと82兆円

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テスラの積極的なEVへの参入が日米欧の大手自動車メーカーに刺激を与え、EV化へと促した。また既存の大手自動車メーカーの方にも電動化を進めざるを得ない切実な事情が生じていた。

テスラの2020年度の決算をみると、売上高は前年比28%増の315憶3600万ドル(約3兆4000億円)、最終利益は7億2100万ドル(約780億円)と初めての黒字となった。その中で他の大手自動車メーカーではまずみられない利益がある。CO2の排出権取引による売却益15億8000万ドル(約1700億円)だ。この「排出権クレジット」と呼ばれる利益がなければテスラは2020年も赤字であったはずだ。

排出権取引とは基準以上のCO2を排出する企業が基準以下の排出企業から排出枠を買い取る制度だ。テスラ車はすべてEVなので、テスラが売ったクルマは走行中にCO2を排出しない。そのため基準内でCO2を排出する枠を丸々持っている。

一方、ガソリン車などを大量に売っている大手自動車メーカーの多くは基準を超えてCO2を排出してしまう。その排出枠をテスラから買っているのだ。

この制度は米カリフォルニア州で1990年から実施され、ニューヨーク、マサチューセッツ、ニュージャージーなどの州へと広がっている。EUでも2021年からはクルマ1台のCO2の排出量を走行1km当たり95gに規制する厳しい制度が始まる。それを上回れば排出枠を買わねばならない。

大手自動車メーカーは多い場合、数百億円の排出枠をテスラから買っており、経営の圧迫要因になっている。他方、テスラにとっては、この制度は自社に有利に働く「宝の山」である。

「打倒テスラ」を掲げている大手自動車メーカーにとって、テスラから排出枠を買うのは「敵に塩を送る」ようなものである。それを何とか避けるにはCO2排出量をゼロにするEVを増やさざるを得ないのだ。

テスラVS大手自動車メーカー

ドイツのフォルクスワーゲン(VW)は2020年11月、電動化や自動運転などの次世代技術に2021年からの5年間に730億ユーロ(約9兆4900億円。1ユーロ=130円で換算)を投じると発表した。この巨額投資についてVWは「この計画はテスラを倒すためのものだ」(ヘルベルト・ディース社長)といい、テスラを追い詰める構えだ。

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米最大手のゼネラル・モーターズ(GM)も黙ってはいない。メアリー・バーラCEOは2021年1月、GMの企業ロゴを57年ぶりに変えて、電気プラグをイメージしたデザインにした。電動化を進める姿勢を強くアピールするものだ。世界最大のデジタル見本市「CES」では商用車を含む全車種を電動車に切り替えると宣言し、「北米のEV市場でテスラを抜く」といい放った。

EV市場を切り開いたテスラだが、EV化が加速する今、欧米の自動車メーカーは打倒テスラの姿勢を鮮明にする。「テスラVS大手自動車メーカー」というグローバル競争の構図が電動化の進展で浮き彫りになっている。

安井 孝之 ジャーナリスト・Gemba Lab代表

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やすい たかゆき / Takayuki Yasui

1957年兵庫県生まれ。日経ビジネス記者を経て、1988年朝日新聞社に入社。東京経済部、大阪経済部で自動車、流通、金融、財界、産業政策、財政などを取材した。東京経済部次長を経て、2005年に編集委員。企業の経営問題や産業政策を担当し、経済面コラム「波聞風問」などを執筆。2017 年4月、朝日新聞社を退職し、Gemba Lab株式会社設立、フリージャーナリストに。日本記者クラブ企画委員。著書に『これからの優良企業 エクセレント・カンパニーからグッド・カンパニーへ』(PHP研究所)など。

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